近年、「筋膜リリース」という言葉が多く知られるようになりました。
医師がエコーを見ながら、筋膜に生理食塩水を注射するハイドロリリース(筋膜リリース)が行われている整形外科もあります。
また、理学療法士や整骨院などでも、筋膜リリースと称した手技療法を行うところが多くなりました。
このような背景から「なかなか治らない腰痛に筋膜リリースは効果があるのでは?」と考えることも少なくありません。
しかし、一般的に「筋膜」は間違った情報として伝わっている部分もあり、それが結果として筋膜リリースで腰痛を悪化させたり、再発を繰り返すことがあります。
筋膜リリースで腰痛を改善したい、腰痛を改善したいけど筋膜リリースの効果を知りたいという人は、ぜひ続きをお読みください。
ここでは、筋膜リリース 腰痛改善の効果を科学的根拠を踏まえて解説しています。
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筋膜とは?
日本では筋膜(筋外膜、筋周膜、筋内膜)だけが取り上げられています。
しかし、日本でいう筋膜は世界の研究でFasciaと呼ばれ、筋膜だけを指す用語ではありません。
また、Fasciaは研究が続いている分野であり、定義も議論中で以下の2つが挙げられています。
(1)定義A:筋膜Myofasciaに加えて腱、靱帯、神経線維を束ねる結合組織、脂肪、胸膜、心膜など内臓を包む膜など骨格筋と無関係な部位の結合組織を含む概念であり、その線維配列と密度から整理されます。
(2)定義B:鞘、シート、あるいは剖出可能な結合組織の集合体で、裸眼で肉眼的に確認可能な程の大きさがあります。そして、Fasciaは皮膚と筋の間(皮下組織)、筋周囲、末梢神経と血管をつなぐ、それら関連構造をも含みます。
世界のFascia研究では皮膚、脂肪層、内臓を包む膜組織まで含む広い括りで捉えられる組織です。
そして、定義が議論中である以上、解っていないことも多く、これから新しい知見がドンドンと出てくる可能性のある分野と考えられます。
日本の筋膜の解釈は、Fascia定義の段階で誤解が生じています。
Fasciaの構造
筋膜は、鳥肉の薄皮のようなコラーゲン線維と説明されます。
しかし、Fasciaは広い意味で結合組織を含む概念であり、解剖学的な構造は細胞成分(線維芽細胞、 脂肪細胞、マクロファージなど)線維成分(コラーゲン線維、エラスチンなど)基質(細胞外液、間質液などの体液)に分類されます。
そして、これらの構成配分の違いによって、疎性結合組織、密生結合組織、膠様組織、細網組織、脂肪組織に分類されることがあります。
もう少し具体的に説明すると日本で言われている筋膜は疎性結合組織(線維成分が少なく器質と細胞が多い)であり、伸張性の少ない靭帯や関節包は密性結合組織(線維成分が多く器質と細胞が少ない)です。
日本における一般的な筋膜リリース(手技およびフォームローラー、ハイドロリリース)は、疎性結合組織に対して行われています。
筋膜リリースの方法は?
セルフケアで筋膜リリースを行う場合は、フォームローラーが使用されることが多いです。
他には筋膜を伸ばすようなセルフケアも行われます。
手技においては、整骨院・整体だけではなくエステでも筋膜リリースが取り入れられ、ステンレス製のツールなどの道具を用いたり、痛みを伴うくらいの圧で施術が行われたり、筋膜リリースの方法は多岐にわたります。
一般的な筋膜リリースでは、「筋膜の癒着をはがす」「筋膜のねじれ解きほぐす」「縮まった筋膜を伸ばす」などの表現が用いられることが多く、この効果によって腰痛に限らず痛みや不快感が改善されるとしています。
果たしてこのように癒着したり、縮まったりした筋膜構造を変化させたりすることができるのでしょうか。
筋膜リリースで構造的な筋膜の変化は変えられない
結論としては、構造的に変化した筋膜組織はこれらの筋膜リリースでは「ほとんど」変えることはできません(参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18723456)
筋膜の癒着をはがすと称して、ゴリゴリと強い圧でフォームローラーを使用したり、筋膜リリースの手技を受けたとしても筋膜の癒着は剥がれません。
整形外科医からみた筋膜の癒着
加茂整形外科医院の加茂先生は筋膜の癒着について以下のように述べています。
整形外科医が「筋膜の癒着」という言葉で想像するのは・・・
手術痕の部分で、あるいは小児の臀部や大腿部の予防注射痕(一時問題になりましたね)で真皮、脂肪組織、筋膜が癒着した状態を想像します。
マッサージで改善しません。生食を注入しても剥離できません。メスで切り離す。また癒着する。
癒着していると二次的な弊害が出てくるかもしれませんが、癒着があるから痛いというわけではありません。
このように整形外科医にとって「筋膜リリース」「筋膜はがし」ということばを理解し難いのです。
手術の動画をみさせていただきましたが、筋膜の癒着とされる部分は電気メスによって剥がしています。
研究報告および外科的手術の臨床現場の声を聞くと、筋膜の癒着を剥がすことは不可能であると言って良いでしょう。
一般の人は、筋膜の癒着を剥がそうとしてフォームローラーを痛みを我慢しながら強い圧で行うことは止めましょう。
ハイドロリリース
整形外科医が行うハイドロリリースは、根拠があるのでしょうか。
ハイドロリリースは、エコーで患部を確認しながら、癒着部分に薬液や生理食塩水を注射器で注入して筋膜をはがすと言われています。
日本整形内科学会研究会では以下のように述べられています。
エコー画像上では“白く厚い帯状のfascia”をバラバラにするように薬液を注入)し、鎮痛効果に加えてfasciaの伸張性・滑走姓の改善を期待する手技です。
実際のハイドロリリース以下のようなものになります。
引用元:岡山光南病院
癒着をはがすと解説されることも多いですが、日本整形内科学研究会では剥がすよりも伸張性および滑走性の向上が期待できると記しています。
先に解説したように癒着を生理食塩液水や薬剤で剥がすことは難しいです。
動画を見てもらうとわかりますが、生理食塩水を注入することで白い部分(筋膜構造)に黒い部分(細胞間質液)が広がっていますです。
ハイドロリリースの原理としては、何らかの原因で水分がなくなっていることで動きを妨げている状態であり、水分が流れ込むことで動き(滑走性)が改善されると考えられます。
なぜ水分がなくなったのか?
ハイドロリリースで腰痛が改善されるケースは、筋肉間の滑走性が低下しているだけで、薬液を注入することで間質液を押し流し一時的に滑走性が向上しているだけです。
なぜ間質液の粘土が上がって水分量が低下したのかを解決しないと、同じようなことが起こりえます。
臨床的にハイドロリリースをしてもらい、その場は驚くほど楽になったとしても再発するという声は多いです。
ハイドロリリースで腰痛が改善されても一時的であり、根本的な原因に目を向ける必要があるでしょう。
痛い筋膜リリースで腰痛が改善される?
痛みをこらえて筋膜リリースを施術してもらった、もしくはゴリゴリと強い圧をかけたフォームローラーを行った人のなかには、腰痛が改善されたケースもあるかと思います。
なぜ筋膜の癒着が剥がれていないにもかかわらず、腰痛が改善されたのでしょうか。
単純には、ハイドロリリースのように滑走性が向上したことが考えられます。
あともう一つは、痛みに対する慣れです。
ストレッチにおいても可動域の向上が期待できる要因に慣れ(ストレッチトレランス)があります。
痛みを伴う場合、このような慣れによって痛みの感覚が変化することがあります。
ストレッチについて詳しくはこちら
腰痛が改善するケースは結果的に良いですが、最悪のケースとして強い圧刺激によって組織がさらに損傷してしまうことです。
上手いセラピストは、痛みを伴う場合でも正常な筋肉組織を避けているため、悪化するケースは少ないです。
一般の人が注意する点としては、痛みがあるから筋膜の癒着が剥がれていると勘違いしないようにしましょう。
フォームローラーの筋膜リリースは腰痛に効果ない?
フォームローラーに関する研究は多数あります。
複数の研究をまとめた報告では以下のことが述べられています。
関節可動域の増加に短期的な影響を与え、激しい運動後の筋肉痛の減少を弱めるのに役立つ可能性がある。
関節可動域が増加することで、身体が動かしやすくなり、結果として腰痛が軽減する可能性があります。
関節可動域が増加する理由は、先に解説したストレッチに痛みに対する慣れと同様の効果が考えられています。
また、フォームローラーで圧迫されることで液体が浸透し、筋膜の異なる層間の動きが改善されますとされ、これも先に解説した滑走性の向上です。
フォームローラーの鎮痛効果による腰痛改善
フォームローラーの鎮痛効果に関する研究報告は以下のとおりです。
上行性の痛み抑制システム(違う部分に痛みが生じると初めに痛みを感じていた部分の痛みが減少する)と広汎性侵害抑制調節(広い範囲に痛みの刺激を加えると痛みが減少する)を通じて鎮痛効果ある(参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27853885/)
このように筋膜ではなく、中枢神経システムが影響して腰痛改善の効果は期待できます。
フォームローラーで筋膜にアプローチして「癒着をはがす」「筋膜の歪みを正す」と言われることも多いです。
しかし、これらの研究で示すようにフォームローラーで腰痛が改善されるのは筋膜が変化するのではなく、Fasciaの構造における水分浸透による滑走性の向上および、中枢システムによる鎮痛効果です。
Fasciaには筋肉にない神経がある
Fasciaにはパチニ小体、ルフィニ小体などの機械受容器(センサーのようなもの)が多数存在します。
パチニ小体は振動と圧、ルフィニ小体は圧を感知し、これらの神経系の影響によって筋緊張の緩和、可動域の向上がみられます。
厳密にいえば、構造的な組織の癒着をはがしたり、歪みを整えるのではなく、これらの神経系を介することが本来の筋膜リリースです。
この神経構造を利用したものが、振動するフォームローラーです。
振動するフォームローラーに乗ることで、パチニ小体・ルフィニ小体に振動と圧刺激が加わるため、筋肉の緊張が緩和されたり関節の可動域が改善されます。
振動と圧についてはパチニ小体・ルフィニ小体に刺激として認識できる程度で十分なため、強い刺激である必要はなく心地よいと感じる刺激です。
最近では、マッサージガンと呼ばれる振動する機器もありますが、同じ原理です。
効率よく筋膜リリースで腰痛改善する方法
ここまで解説してきたように筋膜リリースは、強い圧、痛みをこらえるくらいの強さで行う必要はありません。
とくに広範囲にわたって筋腹を強い圧で刺激すると、筋肉組織を痛めて悪化させる可能性があります。
フォームローラーを使用してセルフで筋膜リリースを行う場合は、心地よく感じるレベルで腰から背中全体をまんべんなくコロコロと行いましょう。
注意する点としては、反り腰による腰痛(とくに腰椎分離症・すべり症)は、腰が反りやすくなることで痛みが強くなる可能性があるため、仰向けで腰を反らさないようにしたほうが安全です。
振動するフォームローラーを使用すると、労力を少なくして筋肉の緊張が緩和するため、効率的に腰痛改善する可能性があります。
コンプレフロスバンド
コンプレフロスバンドは、ハイドロリリースとよく似た原理で筋膜リリースができます。
腰部に巻くつけて圧迫し、簡単な運動(前屈・後屈など)を行い、バンドを外すことでその部分に水分が流れ込み身体の可動域が向上します。
引用元:日本工学院ホームページ
また、フォームローラーと同様に圧刺激も加わるため、神経系を介して筋肉の緊張が緩和します。
コンプレフロスバンドは自分でも巻きやすいため、セルフケアにお勧めです。
栄養・運動も大事
Fasciaの構成要素は、細胞、線維成分・基質(液体)です。
Fasciaの構成に必要な脂質・タンパク質、ミネラル、水分など不足気味になると間質液の粘土が上がり、滑走性の低下がみられたり、細胞の代謝が上手く行われず構造的な変化を起こす可能性があります。
体液の流動性、代謝の向上には運動も必要です。
下手な筋膜リリースを行うのであれば、栄養を摂って、運動を行い、十分な休養(睡眠)を心掛けたほうがFasciaの状態も向上し、リリースと同じ効果が得られます。
手技(手)による筋膜リリースを効果的に行うには?
○○式筋膜リリースと称して、唯一無二のように宣伝するケースも少なくありません。
また、国際的なFasciaに関連する手技の資格もありますが、ここまで述べたような科学的な手法が取り入れたれており、特別な技術でもないと考えられます。
カイロプラクティック心も多くの先生から筋膜へのアプローチを習ってきましたが、手法に特別な方法はありませんでした。
ただ、Fasciaに対して正確にアプローチするための共通する点は、触診の技術力と解剖及び生理学の絶対的な知識量です。
そもそも、なぜそこのFasciaに問題が生じ、どのような状態であるかを正確に把握する必要があり、その判断をするために先に述べた知識と触診の技術が重要となります。
極論Fasciaに問題が無ければ、関節へのアプローチや腱や筋腹の神経線維(Ia.Ⅰb刺激)で十分に筋肉の緊張は緩和されます。
なかには筋肉が伸張された状態であるケースもあり、ストレッチをかけるような筋膜リリースは無意味です。
このような不必要なアプローチを避けるために、とくに触診力が必要となり、さらには筋力テスト、カウンセリングなど総合的な評価が大切となります。
そして単純に痛いところを押すのではなく、しっかりとしたポイントを把握して一人ひとりに合わせた関節の動かし方、触診の仕方ができれば、効果的な筋膜リリースと呼ばれる手技が可能となります。
カイロプラクティック心の筋膜リリース腰痛改善
カイロプラクティック心は、今まで紹介した科学的な知見を踏まえてFasciaリリースとして提供します。
Fasciaの滑走性向上
筋肉は、何層にも重なっています。
その層の間の滑走性を向上させるために筋肉と筋肉の間に手を滑り込ませ、他動的および自動的に身体を動かして筋肉の滑走性を向上させます。
筋肉の損傷を防ぎつつ、筋肉の間に手を滑り込ますことで圧刺激および間質液が流れ込みやすくなり、動きやすくなります。
神経系を介したFasciaリリース
適度な押圧、伸張圧を加えることで筋緊張が緩和されていきます。
アプローチする場所は圧痛があるケースもあり、コミュニケーションをとりながらソフトな刺激で行うリリース方法です。
人によってはソフト過ぎて、このような刺激で変わるのか疑問をもつ方もいますが、神経系に伝わる刺激であれば十分に身体は変化します。
筋膜リリースで腰痛が改善されないこともある
筋膜リリースは、万能ではなくFasciaが起因している腰痛に効果があるだけです。
関節障害・内臓起因性・社会的要因・心理的要因など腰痛の原因は多岐に渡り、その人に合った原因に対してアプローチすることが大切です。
カイロプラクティック心は筋膜リリースに限らず、腰痛の原因に合わせたテクニック(カイロプラクティックアジャストメント・内臓マニュピレーション、関節運動学的アプローチなど)を使用します。
筋膜リリースで腰痛が改善されない場合は、他の要因も含めて原因を探る必要があります。
筋膜リリース 腰痛改善まとめ
筋膜が本当に癒着した、捻じれたなどの構造的異常は、徒手やフォームローラーなどのグッズで変化することはありません。
日本で行われている筋膜リリースを科学的に紐解けば、筋膜の癒着や歪みを正しているのではなく、神経系および間質液の作用による変化で腰痛改善がみられます。
何度も書きますが、一般的なセルフケアで強い圧や痛みをこらえるような刺激は筋肉組織を壊しかねないため、心地よい適度な刺激で行いましょう。
投稿者プロフィール
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伊勢市小俣町でカイロプラクターをしています。
病院では異常が見当たらず、どこに行っても良くならなかった方が体調を回復できるようサポートします。
機能神経学をベースに中枢神経の可塑性を利用したアプローチで発達障害、自律神経症状、不定愁訴にも対応しています。
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