頸部ジストニア(頸性斜頸)局所性ジストニアの1つです。
突然、自分の意思とは関係なく頸部の筋肉が収縮し、異常な首の動きや姿勢がみられます。
また、痛みを訴えることが多く他の局所性ジストニアにはみられない特徴があります。
頸部ジストニアは、一般的に知られておらず専門医も多くはないため、周りの理解を得られず困っている人も少なくありません。
ここでは機能神経学的にみた頸部ジストニアの対処法を解説していきます。
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頸部ジストニアの基礎知識
頸部ジストニアの定義は「一定のパターンを持った、不随意な筋収縮による頭部の不随意運動や頭位の異常」とされています。
頸性斜頸とも言われますが、欧米では頸部ジストニアと呼ばれることが多いです。
異常な頭位、不随意運動は、頭部の回旋(左右をみる)側屈(頭部を左右に倒す)屈曲(下を向く)伸展(上を向く)肩の挙上、側弯などがみられ、複数の組み合わせで現れることが多いです。
頸部ジストニアの症状
他の局所性ジストニアはほとんど痛みを伴いませんが、頸部ジストニアは頸部痛を伴うことが多く、主症状となるケースがみられます。
そのため、頸部ジストニアではなく病院によっては単なる頸部痛として処置されていることもあります。(診察時にジストニア症状が現れないことも多いです)
症状としては頭部の振戦(不随意でリズミカルな震え)緩徐反復運動(ゆっくりとして動き)不随意運動がみられ、なかには頭位に異常がなく運動制限がみられることもあります。
頸部ジストニアの特徴
- 一定の異常姿勢もしくは運動パターンがみられる
- 特定の感覚刺激(どこかを触る、眼球を動かすなど)により一時的に症状が改善する
- 主動筋と拮抗筋の関係にある筋肉が同時に収縮する(例えば太ももの前後が同時に収縮する状態であり、強い緊張状態となります)
- 動作に不要な筋肉の不随意運動
- 起床時に症状が改善される
これらの特徴がみられ、頸部の不随意運動がみられると頸部ジストニアと診断されることが多いです。
もちろん、他の疾患の影響や類似疾患との鑑別も必要なため、他の検査も必要に応じて行われます。
頸部ジストニアの主な治療方法
頸部ジストニアは、ボツリヌス注射によって筋肉を弛緩させる治療が有効とされています。(寛解率は30%という研究報告があります)
日常生活に支障がない程度の症状であれば、抗コリン薬が第一選択として処方されることがあります。
ボツリヌス注射だけではなく、EMG(筋電図)バイオフィードバック療法、ストレッチ、エクササイズなどのリハビリが併用されることによって、生活の質が向上するという研究報告もあります。
※EMGバイオフィードバック療法は、筋電図を用いて視覚的にどこの筋肉が活動し、緩んでいるかを確認しながら体を動かし不随意の運動を減らしていくリハビリ方法です。
手術
ボツリヌス注射、リハビリの効果がみられず、生活の支障が強く現れるケースは、外科的手術が検討されます。
〇定位脳手術
凝固術と脳深部刺激療法があり、頸部ジストニアでは淡蒼球に対して行われます。
〇選択的末梢神経遮断術
頭部の回旋運動の異常な収縮が確認できる場合は、副神経胸鎖乳突筋枝と脊髄神経後枝をC1〜C6(後部の頸部筋群)まで遮断する手術です。
選択的に広範囲の神経遮断が可能であり、胸鎖乳突筋以外にも脊髄神経前枝支配の肩甲挙筋が神経遮断の対象となることがあります。
参考文献:ジストニア診療ガイドライン
カイロプラクティック心の機能神経学的アプローチ
頸性ジストニアは、まず神経内科、神経外科での診断してもらうことが第一選択となります。
脳血管障害、脳炎などの脳疾患、先天性代謝異常、遺伝性などの器質的(身体組織自体の異常のため、病院の検査で異常な画像、数値がみられます)な疾患があれば、病院での治療が最優先です。
カイロプラクティック心では、器質的な異常がなく「病院であまり改善傾向がない」「さらに早く良くなるなら受けてみた」という方の想いに応えられるよう病院とは違う機能神経学的な視点でアプローチ致します。
ジストニアの原因
頸部ジストニアの原因は解明されておりませんが、中枢神経系の異常が考えられおり、大脳基底核の運動ループの機能異常が仮説として有力です。
引用元:大脳基底核による運動の制御
脳機能医工学研究センターの高草教授は、「大脳基底核による運動の制御」において、以下のことを述べられています。
大脳皮質―基底核 ループの異常活動にともなう不要な運動プログラムの生成 と,皮質~網様体投射系の亢進,そして,姿勢や筋緊張の制御に関与する網様体脊髄路系の機能異常が存在すると筆者は想定している.また、職業性ジストニアは、動学習や学習の強 化との関連が強い.運動プログラムの生成には,大脳皮質―基 底核ループだけでなく、小脳も重要な役割を担う(Fig. 8A)。 また,体幹・上下肢の運動機能の制御には小脳も重要な役割を担うことから,ジストニアの病態を修飾する因子として小脳の機能異常を考慮する必要がある。
身体は、脳による姿勢および運動制御によって、スムーズな動きが可能となります。
そのため、ジストニアの改善のカギとしては、脳のどの機能(大脳、脳幹、小脳など)が上手く働いていないことでジストニアの症状が現れているかを見極めることです。
機能神経学的アプローチ
機能神経学の考えとして、情報を与える側(脳を含む中枢神経)と情報を受け取る側(関節、筋肉など情報を表現する側)どちらも正常に機能させることが大切です。
頸部ジストニアであれば、頸部を動かす筋肉や関節の問題も解消する必要があります。
ただ、頸部は身体でも上位に近いため、頸部ジストニア以外の人でも頸部以外の問題で頸部にストレスがかかっていることが多いです。
そのため、頸部以外の問題によって頸部にストレスをかけていないかも改善には重要なポイントとなります。
この点においては、筋骨格系のスペシャリストでもあるカイロプラクターは得意とするところです。
大脳基底核
頸部ジストニアは、先に解説したように大脳基底核の問題が考えられています。
運動に関する脳領域は複数ありますが、大脳基底核の役割として環境に応じて運動の修正を行いより洗練された運動を実現させます。
例えば、野球でバットを振りそうになったときストライクゾーンから外れているという情報が入力された場合、バットスイングを止めるのは大脳基底核の役割となります。
また、抑制的な働きをするため、ゆっくりとした動作は大脳基底核が重要な役割を果たします。
大脳基底核の異常により筋肉の活動を抑制できないため、何らかの刺激によって筋肉が過剰な収縮(興奮状態)を繰り返し、頭頚部の震えや付随的に首が動いてしまいます。
大脳基底核は情動やリズムなどあらゆる感覚と運動を調和させる役割があり、ダンスによって頸部ジストニアが軽減された症例もあります。
他にも大脳基底核の経路を利用したアプローチとしては以下の方法があります。
- 音に合わせた動き
- 可能な限りゆっくりとした大きな動き
- go-no-go
- storp
- サッケード
前庭系、視覚系
頸部の筋肉は頭部を安定させる働きがあり、視覚と前庭系との連携が必要不可欠です。
また、頸部のジストニアによっては同一方向への反復された動きも多く、前庭系や視覚などに偏った刺激が入りやすくなります。
視覚系の1つであるサッケードは、大脳基底核の眼球運動ループの一つになります。
そのため、サッケードによって頸部ジストニアの付随運動に変化がみられることがあります。
前庭系は頸部ジストニアの症状によっては評価が難しいケースもありますが、可能であればアプローチしていきたいポイントです。
小脳
最近の研究では、小脳の過活動が頸部ジストニアに影響していることが示唆されています。
小脳も左右あり、過活動している側の影響により相対的に機能低下した小脳は、運動を抑制することが出来ないため、結果として不随意の筋収縮を引き起こします。
小脳の経路も多岐に渡り、眼球運動、VORキャンセル、細やかな動きなどの運動を行います。
脳の再学習
脳の再学習においては、機能低下が考えられる部分を検査で掘り下げ、その部分に対しての学習を繰り返します。
ただ、脳の神経ネットワークは複雑に相互作用されるため、同じ学習ではなく少しずつ難易度を上げながら、神経機能を向上させていきます。
そして、その人の生活背景、困りごとなどに合わせて日常生活に支障がなくなっていくよう神経系のエクササイズを組み合わせていきます。
神経系エクササイズについて詳しくはこちら
施術
関節や筋肉へのアプローチは、固有受容器を介して脳を活性化させる側面があります。
また、固有受容器からの信号が適切であるからこそ、小脳を介した運動修正も正確になると考えられるため、初期段階ではとくに施術は有効と考えられます。
そのため、頸部のジストニアであっても他の関節可動域の低下および筋肉の拘縮などのアプローチも行っていきます。
頭蓋療法や頸部付近のアプローチにより、ストレスが起因として症状が悪化している場合は、迷走神経が活性化されることのいりジストニアの症状が緩和されるケースがあります。
最終的には、神経機能を改善させる神経系エクササイズは必要不可欠ですが、その効果を上げるために施術は有効です。
栄養
脳機能を活性化させるためにはエネルギー(糖質)も重要です。
また、神経伝達物質を生成する材料(タンパク質、ビタミンB群など)が不足していれば、神経系のエクササイズを頑張ったとしても効果が現れにくくなる可能性があります。
他の症状の併発(倦怠感、めまい、起床時の頭痛など)、便秘や下痢など栄養の問題も考えられる場合は、栄養状況を見直すアドバイスもさせていただきます。
回復するには?
カイロプラクティック心のジストニア改善のポイントは、脳の可塑性を利用した再学習です。
脳の可塑性を効果的に行うためには頻度が重要となり、段階的に可塑性を促すエクササイズの難易度を上げていくことが大事になります。
そのため、1回の施術、エクササイズで解決することはありません。
とりあえず、1回だけという方は申し訳ありませんが、お役に立てることはないです。
集中的に行う場合
1日2回(午前、午後に1時間)を週5回、集中的アプローチしていきます。(エクササイズ中心)
※身体評価は別日に行います。
とくに遠方の方で数ヶ月通うことが難しい方は、集中的にエクササイズを可能な限り行います。
5日間で完全に症状が改善するワケではありませんが、集中コースで改善の見込めるエクササイズを絞り込み、自宅でのセルフケアとフォローアップで症状改善を目指します。
フォローアップとして、ZOOMを利用してエクササイズの確認、必要に応じてエクササイズの難易度を上げたり、新しいエクササイズを指導いていきます。
3ヶ月
通える方は3ヶ月の期間、週1~2回の施術+エクササイズにくわえて、自宅でのセルフケアを指導していきます。
集中的に行う場合でも、セルフケアを含めて3ヶ月くらいは経過を観察していく必要があります。
通っていただける方は、施術で体の機能を高めながら(必要に応じて栄養状況を確認)エクササイズを指導していきます。
体の機能低下が大きい場合(エクササイズ後の疲労感が大きい、気分が悪くなるなど)集中的に行うことも難しく、徐々に神経系への刺激を大きくしていく必要があります。
痙性斜頸(頸部ジストニア)お困りの方へ
頸部ジストニアは、専門医も少なく仮に病院を受診できたとしても解決の糸口がみつからないケースも少なくありません。
カイロプラクテイック心では、そのような方に脳機能の視点から解決できるようサポートさせていただきます。
遠方の方でもZOOM(オンライン)を可能な範囲で利用しながら、頸部ジストニア改善に向けてアプローチいたします。
投稿者プロフィール
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伊勢市小俣町でカイロプラクターをしています。
病院では異常が見当たらず、どこに行っても良くならなかった方が体調を回復できるようサポートします。
機能神経学をベースに中枢神経の可塑性を利用したアプローチで発達障害、自律神経症状、不定愁訴にも対応しています。
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