股関節から鼠径部付近の痛みは、ランニング、キック動作の多いスポーツ競技に多くみられ、総称としてグロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)とも呼ばれます。
また、医学的に確立された治療ガイドラインがないため、なかなか回復しないケースも少なくありません。
その理由の1つにリハビリ(運動療法)薬物療法、安静だけでは原因が解決されていないことが考えられます。
ここではグロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)の原因やカイロプラクティックでの改善方法など詳しく解説していきます。
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グロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)とは
グロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)は、鼠径部付近の痛みの総称であり、病態を表した主な診断名は以下のとおりです。
- 内転筋腱障害
- 腸腰筋の機能障害
- 鼠径管後壁欠損
- スポーツヘルニア
- 外腹斜筋の腱膜損傷
- 閉鎖神経の絞扼
- 大腿骨頭寛骨臼インピージメント(FAI)
- 恥骨炎
これらは慢性的な鼠径部痛の病態です。
この他にも、急性的な鼠径部痛(筋損傷、軟骨損傷、関節唇損傷、滑膜炎、滑液包炎)の病態も含まれます。
グロインペイン症候群の1つとされるFAIについて詳しくはこちらをご参考ください。
スポーツ競技では、「ランニング負荷が大きい」「急激な方向転換」「キック動作」を伴う競技に多くみられます。
鼠径部疼痛患者(男性173人、女性45人)のうち男性はサッカー(22%)とラグビー(21%)が最も多く、女性はランナー(40%)が最も多かったという研究報告があります。
ヨーロッパのプロサッカー選手を調査した研究では、内転筋(628例中399例)腸腰筋(628例中52例)の障害が多いと報告されています。
症状
症状は、痛みの原因部位によってによって異なります。
- 捻る動作や方向転換などで恥骨周辺に痛みがある⇒内転筋群
- ランニングやキック動作で 鼠径部中央あたりの深部に痛みを感じる⇒腸腰筋
- せきやくしゃみなど腹圧が上がるときに痛む⇒鼠径管後壁
- 腹筋を行う姿勢で、恥骨に痛みがある⇒腹直筋
- 体幹部の回旋、痛みのある側の股関節の伸展で鋭い痛み⇒外腹斜筋腱膜の損傷
痛みの初期は、運動後や次の朝に痛みが発生し、ウォーミングアップにより軽減する場合もありますが、継続して運動することにより、運動開始時に痛みが悪化するようになります。
診断方法(レントゲン・MRIなど)
レントゲンでは筋損傷、機能障害の判断はできませんが、骨折、関節の変形(先天的な変形によるインピージメント)などの診断には有効です。
また、MRIでは関節唇損傷、筋および腱などの軟部組織の損傷、骨軟骨の損傷などの診断に有効です。
超音波(エコー)では、動かしながら組織を観察できるため腸腰筋の問題(とくにスナッピング症候群には有用とされています)また、鼠径部ヘルニアの診断には有効です。
最近では関節内視鏡検査も行われるようになり、股関節の病変(軟骨損傷、靭帯損傷など)の診断に役立てられています。
鼠径部付近の痛みの要因として大きくは股関節内要因と股関節外要因に分けられ、さらには急性、慢性でも区別する必要があります。
また、鼠径部疼痛を有する患者の27〜90%が複数の共存する損傷を有すると推定されているという研究報告もあり、病院でしっかりと画像診断を受けておくことが大切です。
ほかにも婦人科系疾患、泌尿器系疾患、ガンなども鼠径部付近の痛みが現れるため、鑑別診断が重要です。
MRI診断が重要
内転筋群だけでも6つの筋肉で構成されており、さらに複数の筋肉が股関節付近には集まっています。
そのため、どの筋肉が問題であるかをMRIでしっかりと鑑別しておくことも大事です。
なかには症状とレントゲンだけでグロインペイン症候群と推測されることもありますが、大雑把な診断と言えます。
そうなると、リハビリが上手く進行しない(触診技術と臨床経験が豊富な理学療法士に担当してもらえれば良いかもしれませんが、、、)こともあります。
経済的な負担は大きいですが、早めにMRIで確実に損傷部位を特定しておくことも重要です。
一般的な病院治療
グロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)は、手術が有効な病態と保存療法(とくに運動療法を行うリハビリ)が有効とされる病態があります。
この治療方針を決定させるためにも診断が重要です。
安静
痛みが強くみられる場合は、運動を制限させます。
ただ、安静によって痛みが治まっても再発を繰り返すことが多いです。そのため、リハビリも大切となります。
リハビリ(運動療法)は、安静と他動的な電気治療との組み合わせに比べ、早期競技復帰がみられる研究報告が複数あります。
リハビリ
痛みの原因と考えられる筋肉に対して、マッサージおよびストレッチを行い柔軟性を改善させていきます。
また、腰椎ー骨盤部の不安定性、体幹深部の筋機能不全がみられることが多いため、ダイアゴナル、プランク、サイドプランクなどの体幹トレーニングを行います。
競技復帰に向け、筋肉の協調運動が行えるプログラムも組まれます。
参考サイト:横浜市スポーツ医科学センター
参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4223287/
グロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)は、障害されている原因部位が異なるため、それに合わせたリハビリプログラムを行う必要があります。
また、トレーニングフォーム、頻度や回数などのプログラムなど専門性が必要です。
また、慢性的な場合は、8~12週のリハビリ期間と考えられています。
外科的手術
鼠径ヘルニア、鼠径管後壁の弱化は手術が適応されます。
また、他の病態でも保存療法が効果がない場合は、外科的手術が検討されることがあります。
なかなか治らないグロインペイン症候群?
グロインペイン症候群は、ここまで解説してきたように複数の病態があり、診断が難しいとされています。
また、複数の病態(例:インピージメント症候群と腸腰筋機能障害)によって鼠径部痛を発症していることも多く、それらに対応できないと痛みが継続します。
競技復帰には適切なリハビリも重要であり、医師の治療だけでは不十分です。また、リハビリプログラムにおいては、専門性も必要になるため、どこの病院でも受けられるとは限りません。
そのため、安静と薬物療法(痛み止め薬)、電気治療だけでは、なかなか回復しないことが多いです。
また、効果的な運動療法を行っていたとしてもグロインペイン症候群となった原因(関節や筋肉の機能障害、筋肉のアンバランスなど)が解決できていないと再発してしまいます。
臨床スポーツ医学では保存療法で改善できない理由を以下のように述べています。
- 不適切な診断(股関節の病変、疲労骨折、鼠径ヘルニア、関連痛)
- 不適切な安静期間
- 治療上の支持の不徹底
- 痛みがある状態のエクササイズ
- 不適切な負荷の漸増
- コアの不安定
- 腰椎椎間関節の低可動の持続
- 内転筋のguarding(筋性防御)の持続
出典:臨床スポーツ医学
グロインペイン症候群の原因
痛みの原因は、内転筋、腸腰筋などの筋肉および恥骨、股関節などの関節です。
ただ、痛みの原因への対処(安静、電気治療、ストレッチなど)では再発を繰り返します。
そのため、負担をかけてしまった原因に対して対処することが早期競技復帰のポイントとなります。
グロインペイン症候群の原因は、恥骨(骨盤)への負荷、その周辺の筋肉、関節の機能障害が主な原因と考えられています。
恥骨には内転筋群、腹直筋が付着しています。また、腸腰筋は恥骨には付着していませんが、寛骨内側に付着し仙腸関節、股関節、腰椎の動きに関与します。(図を参照)
そのため、これらの筋肉、関節の不均衡が部分的に負荷がかかり鼠径部周辺の痛みにつながります。
出典:プロメテウス解剖学アトラス
股関節の可動制限
股関節ー仙腸関節ー腰椎は隣合う関節のため、相互作用します。(厳密にいえば全身の関節と関係します)
そのため、股関節の可動制限は、仙腸関節、腰椎に対して過剰な負荷をかけることになります。
そして、恥骨の負荷が大きくなれば、恥骨炎となる可能性があります。
股関節の可動制限要因には、大腿骨寛骨臼インピージメント、関節包の拘縮、関節の問題(関節唇損傷、軟骨損傷、変形)などがあります。
関節の機能異常
関節の動きに異常運動がみられると、その周辺の筋緊張が生じ結果として内転筋や腸腰筋の問題によってグロインペイン症候群を発症することがあります。
股関節の可動制限同様に恥骨への負荷が大きくなることもあります。
筋肉のアンバランス
腹筋群は、後部の脊柱起立筋と相互作用して骨盤を安定させます。
また、骨盤と下肢を安定させるために大殿筋や中殿筋、内転筋群も活動しています。
これらの筋肉のアンバランスによって、負荷のかかった筋肉は微小な損傷が繰り返されるため、グロインペイン症候群を発症します。
筋性防御(筋肉の過緊張)がみられる場合は、緊張した筋肉へのマッサージだけではなく「何が原因で筋が緊張したか」を解決する必要があります。
モーターコントロール異常
ランニング、キック動作、ターン動作など全ての動作で筋肉および関節の協調運動が必要です。
協調運動が正常に行えないと一部分の筋肉、関節に負荷(グロインペイン症候群であれば、内転筋、腹直筋、腸腰筋、恥骨結合)がかかり 最終的に痛みとして現れます。
神経系の問題であるため、単純に痛めている部位のエクササイズやストレッチだけで解消されにくく、リハビリプログラムで効果がみられない場合は、モーターコントロール異常が原因として考えられます。
また、コアの不安定性も神経系の影響を受けています。
安静やリハビリだけではなく関節や筋機能を可動域、神経系の問題など多面的な視点で解決していくことが、グロインペイン症候群から早期競技復帰するには大切です。
カイロプラクテック心のグロインペイン症候群アプローチ
カイロプラクテック心では、病院や他の治療院(整骨院、鍼灸、整体など)では、ほとんど評価しない神経系の問題(モーターコントロール異常、中枢神経の機能低下など)にも取り組むことで治りにくかったり、再発を繰り返したりするグロインペイン症候群を改善させます。
例えば、大殿筋が上手く機能していないことで代償的に腸腰筋、腹筋群が活動している場合、腸腰筋や腹筋群をマッサージして痛みが治まっても、負担をかけている状態は変わらないため、再発しやすいです。
このようなケースでは、大殿筋が上手く機能していない原因も改善させる必要があり、さらには大殿筋を使う運動学習をしなければいけません。
評価を重視
- 姿勢分析
- 動作分析
- 神経機能テスト
- 筋力テスト(モーターコントロール異常)
- 関節可動域テスト
評価を重視することで原因に対してアプローチすることができます。
複数の原因が複雑に絡んでいることで、なかなか治らないケースが多くそれらを解きほぐすためにも評価が重要です。
股関節周辺だけではなく全身を評価することによって、股関節に負担をかけていた原因を解決し、再発予防も行えます。
施術
- 膝、股関節の可動域検査
- エクササイズ道具
- 足関節調整
- スポーツスクール身体の使い方指導
関節障害、筋骨格系の問題⇒関節運動学的テクニック、カイロプラクティックアジャストメント
モータコントロール異常⇒NKT、筋骨格系アプローチ
筋緊張⇒筋伸張テクニック、ストレイン・カウンターテクニック
中枢神経の機能低下⇒神経活性化エクササイズ、カイロプラクティックアジャストメント
身体の使い方の問題⇒エクササイズ指導、フォーム指導
カイロプラクティック心は施術歴12年の施術者が責任をもって一人で担当させていただきます。また、安心して施術を受けていただけるよう現在も文献を読んだり、セミナー、勉強会にも出向いて知識と技術向上に努めております。
科学的に有効と証明されている運動療法も取り入れています。
運動療法
グロインペイン症候群においては、複数の研究で運動プログラムの有効性が示されています。
ハビリテーション管理は、股関節と胸部の可動域の改善、内転筋の強化、体幹と腰椎の安定性、体力に基づく筋力トレーニング、そしてフィールドに基づくリハビリテーションとコンディショニングに重点を置いていました。臨床経過観察は、試合復帰後少なくとも8ヶ月間行われた。結果すべてのプレイヤーは痛みの軽減または解消されました。5人のプレイヤーのうち、平均トレーニング日数は40.6日(範囲、30-60日)で、平均プレー日数は49.4日(範囲、38-72日)です。最後の追跡調査(平均29.6ヶ月;範囲16〜33ヶ月)では、再発は見られなかった。
股関節、胸部の可動域改善は、施術及びモビリティーエクササイズの指導、体幹と腰椎はバランスボール、バランスディスクなどを使用して行います。
病院でリハビリを行われていない場合は、指導させていただきます。
グロインペイン症候群から早く競技復帰したい人へ
グロインペイン症候群は、適切に処置をしたとしても症状の回復に時間がかかることもあります。
また、適切なリハビリができていても神経系の影響が解消されていないと効果的に感じないこともあります。
カイロプラクティック心では、科学的根拠のある処置を取り入れ、神経系からバランスを改善させることで、慢性化したグロインペイン症候群の回復も対応させていただきます。
なかなか治らないグロインペイン症候群を、1日でも早く改善したい人は、ぜひご相談ください。
早くスポーツ競技に復帰したい、全力で練習をこなせるようになってレベルアップしたいなどの想いに応えられるよう全力でサポートさせていただきます。
グロインペイン症候群になってしまった原因を改善させて一緒に競技復帰を目指しましょう。
参考文献
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27632829
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4849255/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6307487/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5717490/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9989713
投稿者プロフィール

- カイロプラクター
-
伊勢市小俣町でカイロプラクターをしています。
病院では異常が見当たらず、どこに行っても良くならなかった方が体調を回復できるようサポートします。
機能神経学をベースに中枢神経の可塑性を利用したアプローチで発達障害、自律神経症状、不定愁訴にも対応しています。
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