トリガーポイント治療は、病院(トリガーポイント注射)だけではなく、鍼灸、整体などの施術でも受けることができます。
そして、原因のわからない痛みは、トリガーポイントが大半をしめると断言する医師もしますが、、本当のところはどうでしょうか。
ここでは科学的な検証および臨床をふまえて、トリガーポイントについて解説しています。
慢性的な痛みで困り、トリガーポイント治療を受けようか迷っている人、トリガーポイント治療を学ぼうとしている人にはお勧めの記事です。
よろしければ、続きをお読みください。
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トリガーポイントが引き起こす筋筋膜疼痛症候群(MPS)
1843年、Froriepが筋肉中に索状に触れる過敏点の存在を報告したのが、トリガーポイントの始まりです。そして、1983年には、TravellとSimonsが筋筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome:MPS)とトリガーポイントの概念を体系化しました。
トリガーポイントとは?
トリガーポイントは、引き金になるポイントという意味であり、筋肉内の索状硬結といわれる筋肉の塊りとして体表面で触れることができます。
そして、痛みやしびれ、自律神経症状(めまい、発汗など)を引き起こすだけではなく、トリガーポイント以外の部位に症状(通常は疼痛)を引き起こす関連痛もみられます。
最近のトリガーポイントの定義として、「過敏化した侵害受容器」と言われ、筋肉だけではなく腱、靭帯、脂肪、皮膚にも存在するとことが知られるようになりました。
「トリガーポイント=筋硬結」というワケではありません。
※侵害受容器は、痛みを感じとるセンサーの役割を果たす組織です。
トリガーポイントの種類
トリガーポイントの状態によって、大きく3つに分類されています。
トリガーポイントの第一段階
筋肉の硬結がみられる状態であり、その部分に圧痛が生じます。
循環を阻害する要因となりますが自覚されることは少なく、冷えやストレスなどの刺激が加わり抹消循環不全が持続すると潜在性トリガーポイントに変化すると考えられています。
潜在性トリガーポイント
トリガーポイントの部分にみられる圧痛に加えて特定のパターンで関連痛(圧痛部位と離れた部分に痛みが放散)がみられると共に、唾液分泌、鼻づまり、腹鳴など副交感神経性自律神経現象が誘発されます。
さらに、抹消循環低下が持続すると活動性トリガーポイントに変化します。
活動性トリガーポイント
運動痛、自発性の関連痛(トリガーポイントを刺激しなくても関連痛が発生している状態)が生じるだけではなく、しびれ感、感覚鈍麻が生じることもあります。
トリガーポイントの特徴
トリガーポイントには以下の特徴があります。
- 索状硬結の圧痛(ジャンプ徴候がみられる)
- 硬結部位を押すと本人が訴える疼痛部位の再現が起こる
- 硬結のみられる筋肉が関わる関節可動域の低下と最終可動域での疼痛
- 索状硬結をつまんではじくと痙攣(単収縮)が起こる
- 筋力低下
単に圧痛があるだけでは、トリガーポイントとは言えません。
トリガーポイントの発生要因
トリガーポイントは、以下の要因によって発生すると言われています。
- 筋骨格組織(筋肉、腱、靭帯など)への急性外傷
- 椎間板の損傷
- 全身疲労
- 繰り返し動作(過度の活動による筋肉の緊張)
- 全身症状(心臓発作、内臓の炎症:胆のう炎、盲腸など)
- 行動不足(骨折によるギブス、同じ姿勢:長時間のデスクワーク)
- 栄養不良
- ホルモンの変化(閉経、PMS)
- 神経の緊張、ストレス
- 身体の特定部位の冷却(空調の風に長時間当たる)
トリガーポイントは、過度の運動だけではなく行動不足でも発生する理由としては、筋収縮が十分に行われず筋組織が変性する可能性があり、それが結果として筋肉が固くなった状態となるためと考えられます。
また、固定された状態が続くと関節可動域が低下し、筋肉、腱、靭帯の運動阻害要因となります。
筋肉の適切な緊張度は脳によってコントロールされ、ストレスは脳機能を低下させるという研究報告もあり、それが過度の筋緊張となってトリガーポイントが発生しやすくなります。
栄養やホルモンは身体を正常に保つために重要であることから、筋肉や腱などの筋骨格系の組織に問題が生じても不思議ではありません。
トリガーポイントの発生機序
トリガーポイントが発生する原因は解っていませんが、現在はエネルギー危機仮説、運動終盤機能異常仮説、統合トリガーポイント仮説などが有料な仮説です。
これらの仮説を簡単に説明すると、身体のエネルギー源となるATP(アデノシン三リン酸)が何らかの原因で不足し、筋肉が緩まず収縮し続けることで、トリガーポイントが形成されると考えられています。
他の収縮し続ける要因として、過剰なストレッチや外傷による筋組織の損傷によってカルシウムイオン(筋収縮するときに放出されるイオン)が過剰に放出されることで筋収縮の指令が神経系から伝達されていない状態でも筋収縮が続きます。
神経と筋肉が接合している部分にトリガーポイントが形成されやすい原因としては、何らかの障害によりアセチルコリン(運動神経からの伝達を行う神経物質)が過剰に放出され絶えず筋収縮が続いてしまうとされています。
収縮された筋肉の内部では、血管を圧迫し血流を減少(虚血)させ、この状態続くとトリガーポイントが進行します。また、血管が圧迫され老廃物が蓄積されることもトリガーポイント発生する要因です。
また、老廃物が残ることでそれらが組織を刺激して痛みを引き起こすと考えられます。
トリガーポイントの関連痛パターン
トリガーポイントの硬結部位は、圧痛だけではなく特定のパターンで遠隔部に痛みが放散する関連痛が生じることが多いです。
この関連痛パターンも科学的には解明されておらず、「収束ー投射説」「脊髄拡散説」などが仮説として考えられています。
関連痛パターンは、以下の図のようにトリガーポイント(✖印)に対して関連痛(赤色)が生じている状態です。
引用元:筋骨格系の触診マニュアル
筋筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome:MPS)
筋筋膜疼痛症候群(MPS)は、2~3個の筋肉に限局した慢性的な圧痛(トリガーポイント)があり、線維筋痛症と同様に血液検査やレントゲン所見に異常がないことが特徴です。
病院では異常のみられない痛みでもあるため、トリガーポイントの概念を取り入れた施術を行う整骨院、整体、カイロプラクティックは多くみられます。
MPSと線維筋痛症との違い
線維筋痛症はトリガーポイントがなく、全身に痛みが広がっています。
また、MPSは痛みやしびれが主な症状ですが、線維筋痛症は疲労感、不眠、頭痛、過敏性腸症候群などの症状がみられることが多いです。
MPSの症状
通常は疼痛ですが、しびれのほかに罹患筋によっては、力が入らない、耳鳴り、ふらつき、知覚鈍麻など多彩です。
また、うつ、疲労、行動障害に悩まされることもあります。
症状も多彩であり、医療の世界でも認知度が低いことから下記の病名を診断されたケースでも筋筋膜疼痛症候群(MPS)の可能性を示唆されている医師もいらっしゃいます。
椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、坐骨神経痛、頸椎症、椎間板症、神経根症、すべり症、分離症、肩関節周囲炎、腱板損傷、頚肩腕症候群、胸郭出口症候群、テニス肘,手根管症候群、肋間神経痛、変形性関節症、半月板障害、アキレス腱周囲炎、腱鞘炎、足底腱膜炎、シンスプリント、などと言われている疾患の痛みやしびれ
引用元:心療整形外科のブログ:MSPについて
MPSの診断基準
[筋筋膜痛症候群の診断基準] (Simons,1990)には以下のようになっています
◇必須の基準
- 筋に触れられれば索状硬結を触診できる
- 索状硬結内に鋭敏な圧痛点が存在する
- 患者の痛みの愁訴は、硬結内の圧痛部位(活性型トリガーポイントと同定される部位)を圧迫したときに認知されるものである
- 受動的にストレッチさせようとしても、痛みのために可動域制限がかかる
◇確認すべき観察ポイント
- 局所単収縮反応を肉眼的あるいは触診で同定する
- 圧痛点に針を刺入すると単収縮が生じる
- 圧痛点を圧迫すると、筋肉内のトリガーポイントから予測できる部位に、痛みあるいは患者が感じていた感覚が再現される
筋筋膜疼痛症候群でみられる一般的なトリガーポイント治療方法
トリガーポイント治療の方法はいくつかあり、病院、整体やカイロプラクティックのような徒手療法、鍼灸などそれぞれの特徴を活かした手法が取り入れられています。
トリガーポイント注射
トリガーポイント注射は、医師のみが行える治療方法です。
トリガーポイントに生理食塩水、局所麻酔剤を直接注射します。
日本のトリガーポイント注射の第一人者でる加茂先生は、局所麻酔薬(ネオビタカイン)を使われているそうです。
トリガーポイント注射の効果を加茂先生のホームページ【加茂整形外科】から抜粋
- 発痛物質の洗い流す
- 運動神経をブロックして筋肉の強ばりを取る
- 知覚神経をブロックして、痛みの信号が脳に到達しな いようにする
- 交感神経をブロックして血流を改善する。
これらは一時押さえではなく、痛みの悪循環を遮断して治癒へ導くのです。
鍼灸治療
鍼灸は東洋医学ではありますが、トリガーポイントをベースに治療を行う鍼灸師もいます。
※鍼灸にも色々な流派、考えがあり全ての鍼灸治療院でトリガーポイント治療が受けられません。
ストレッチ
3~4㎜/秒の速さで30秒ほどストレッチさせます。(ゆっくりとトリガーポイントがみられる筋肉を伸ばします)
また、トリガーポイントに冷却スプレーを散布してストレッチを行うスプレー&ストレッチ法もあります。冷却することにより鎮痛効果がみられるため、痛みによりストレッチが出来ない人に用いられます。
徒手療法
トリガーポイントはセラピストの手によっても改善可能であるため、整体やカイロプラクティックでは主に2つの方法を用いて行われいます。
ディープ・ストローキング・マッサージ
トリガーポイント理論を実践する、多くの専門家に推奨されている方法です。
トリガーポイントに適度な圧を加えながら、ストロークを1~2秒のペースで継続的に30~60回(1分程度)繰り返します。
加圧法
トリガーポイントに100~800g(耐えられる範囲の強さ)の圧を30秒~2分加えます。
腰痛、肩こりなどのセルフケアでテニスボール、フォームローラーなどを利用して行う方法は、これらの手法を応用したものと考えられます。
トリガーポイントに科学的な根拠はない
医師が治療にトリガーポイントを活用していると科学的な根拠があるように思われる人もいますが、科学的根拠は今のところ示されていません。
もちろん、トリガーポイントの有効性を報告する以下のような研究報告も複数あります。
急性腰痛にトリガーポイント治療が有効であったという論文
トリガーポイントの圧迫マッサージを受けたグループ(23人)、トリガーポイント治療を受けないグループ( 21人)で圧迫を受け、表面のマッサージを受けたグループ(19人)は指定された治療を週に3回、2週間受けました。
結果はトリガーポイントの圧迫マッサージを受けたグループの主観的な痛みの軽減、腰部の可動域が大幅に改善されたと報告されました。
トリガーポイント治療に効果がみられたという研究報告は、サンプル人数が少なく治療を受けた人の主観的な要素が大きく含まれるため、根拠がある治療として評価できません。
そのため、効果がないという研究報告も複数あります。
片頭痛・緊張型頭痛もトリガーポイントとの関連性があると言われていますが、客観的指標となる機器(超音波、微小透析、筋電図検査、赤外線サーモグラフィー、および磁気共鳴画像法)を導入した研究では、トリガーポイントと病態との関連性は不明であり、さらなる調査が必要と結論づけられています。(参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6134706/)
トリガーポイントは不明な点もを多く、メカニズムを証明する研究報告はありません。また、痛みのレベルの改善を報告した論文は複数ありますが、それは治療前後の疼痛レベルの自己報告を使用して測定され、無作為化プラセボ対照試験の数は少ないうえ参加人数が少ないです。
さらに、臨床医への自己報告に依存しているので、調査結果の妥当性が不確実です。
トリガーポイントと筋膜リリース
筋膜リリースが世間的に認知されてきたことで、トリガーポイント治療と筋膜リリースが混同されています。
そのため、メディアではテニスボールやフォームローラーを利用したセルフケアを紹介されることが多いです。
筋膜も誤訳されている部分があり、海外ではfasciaとして研究され結合組織の全てを指す用語であり、現在も定義については議論中です。そして、研究中の分野でもあり一般的に説明されるような手技療法で癒着がはがれたり、組織が変化することはありません。
関節の可動域が変ったり、痛みが軽減するのはfasciaの多く分布する固有受容器による神経的な応答であることが考えられます。
癒着を剥がそうと強い力で押してしまうと、かえって組織を痛める可能性もあるため、注意が必要です。
筋膜について詳しくはこちらの記事をご参考ください
カイロプラクティック心のトリガーポイントに対する考え
触診により圧痛の有無は確認します。
しかし、トリガーポイント理論だけ考えて施術を行うことはありません。
圧痛は、何らかの異常がある身体からのサインですが、硬結はトリガーポイントであるとも言えないです。
なぜなら、圧痛および硬結がみられる原因もトリガーポイントだけではなく腫れ、組織の線維化および高密度化、筋紡錘の短縮など生理学的に考えるといくつかあります。そのため、圧痛=トリガーポイントと考えてしまうと施術の効果がほとんどみられないケースもあります。
腫れ感
神経にも血液は流れ込むため、神経が浮腫むことによってトリガーポイントのような圧痛や腫れ感はみられます。
神経マニュピレーションもしくは、神経周辺の圧迫要因を取り除くことが有効と考えられます。
組織の線維化、高密度化
組織自体の弾力性を失っている状態です。
とくに伸張性がなくなっているため、圧痛がみられるポイントに刺激をくわえつつ、ストレッチさせるテクニックを使います。また、線維化した状態は、組織が変性した状態でもあるため、長めのストレッチ(2分以上)が有効です。
筋紡錘の短縮
筋紡錘は固有受容器の一つで筋肉の長さや張力に対して反応します。そのため、筋紡錘が短縮した状態が継続すると筋肉が少し伸ばされるだけでも反射的に筋を収縮させる反応を示します。
AKのテクニックの1つであるストレイン&カウンターによって筋紡錘を伸張させます。そして、さらに組織の伸張性を回復させるためにストレッチを併用していきます。
このようなテクニックを使い分けるためには、組織がどのような状態になっているかを判断することが重要であり、施術を行う前の身体評価が大切となります。
ストレス
ストレスにより脳機能が低下すると適切な筋緊張が維持できず、結果として筋緊張状態が継続するためトリガーポイントが形成されます。
心理面も影響するのは、このような背景があり、筋骨格系だけではなく情動的な問題が生じることは不思議ではありません。
このようなケースにおいて、トリガーポイントに対するアプローチに効果がみられるかは疑問です。仮に効果があったとして脳機能が低下している状態が継続すれば、トリガーポイントが再度形成される可能性があります。
ケースによっては、神経機能を評価・アプローチしていきます。
もちろん、人によって何にストレスを感じそれに対して自分なりの対処法を身につけていくことも大事です。
トリガーポイントができる原因に対応することも大事
臨床的に、トリガーポイントへのアプローチだけでも効果がみられることはあります。
しかし、トリガーポイントが形成された原因に目を向けることで、長期的な症状改善の効果が期待できます。また、トリガーポイントへのアプローチだけであれば、クライアント自身にホームケアとして行ってもらえば十分です。
プロの仕事として、セルフケアだけでは手の届かない部分にアプローチしていくことが大切だと考えています。
投稿者プロフィール
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伊勢市小俣町でカイロプラクターをしています。
病院では異常が見当たらず、どこに行っても良くならなかった方が体調を回復できるようサポートします。
機能神経学をベースに中枢神経の可塑性を利用したアプローチで発達障害、自律神経症状、不定愁訴にも対応しています。
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