発達障害(とくに自閉症スペクトラム障害)は、「視覚優位」が多いと言われています。
これはコミュニケーションの苦手という特徴がみられる発達障害において、言葉よりも視覚的なツールを用いたほうがコミュニケーションを取りやすいということからきているそうです。
しかし、視覚優位であっても視覚能力が人一倍優れているワケではなく、視覚を含めた眼球運動の能力は何かしらの異常がみられることが多いです。
疑問に思った人、視覚を用いたツールを用いても成果の現れない人は、ぜひ続きをお読みください。
ここでは脳機能異常による目に現れる問題について解説しています。
この記事は発達障害に有効なBBIT認定療法士の岡が書いています。
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目から脳の働きがわかる
「目は口ほどに物を言う」
このようなことわざがあるように、目が心の働きを現すことを人は経験的に解っています。
では、神経機能的にはどうでしょうか。
目は物を認識するために、形や色、動き、奥行きなどを識別する必要があり、これらは異なる脳領域で処理されています。
また、眼球運動は意図的に物をみるときに動くだけではなく、体の動きや動くものに対して反射的に動くため、色々な脳領域が複雑に絡み合う神経ネットワークを構築しています。
このようなことから、「眼は脳の窓口」とも呼ばれ、眼は脳機能の約30%を利用しているとも言われています。
視覚
視覚の情報処理は主に2つの経路があります。
- 腹側経路(網膜⇒視床⇒後頭葉の一次視覚⇒側頭葉)
- 背側経路(網膜⇒視床⇒後頭葉の一次視覚⇒頭頂葉⇒前頭葉)
腹側経路は物体の認識に関与し、背側経路は身体運動(物体の動きとその位置関係および自己の空間的な移動など)に関与しています。
例えば、りんごが部屋に置いてある場合、「りんごを認識するのは腹側経路」「りんごがどこに置いてあるのかは背側経路」となります。
周辺視野
対象物を鮮明にみれる範囲を中心視野、それよりも広範囲で物をおぼろげながらでも認識できる範囲を周辺視野と呼びます。
周辺視野は、物体の動きを感知して次の行動に移すために重要な機能です。
最近ではスマホやデスクワークを見続ける習慣のため、周辺視野の機能が低下していることが多いです。
発達障害では周辺視野が狭いことによって「周りが見えない」「不注意」などがみられ、さらには自律神経とも関わることで「強い緊張感」がみられます。
眼球運動
目は対象物を鮮明にとらえるために、中心視野の範囲に収まるように眼球運動を行う必要があります。
眼球運動は、「反射的」「随意的」に分けることができます。
反射的眼球運動は以下のとおりです。
- 前庭動眼反射
- 追従眼球反応
- 視運動性眼球反応
随意的眼球運動は以下のとおりです。
- パースート(滑動性眼球運動)
- サッケード(衝動性眼球運動)
- 輻輳・開散
- 固視
眼球運動が上手く機能しないと、スポーツの苦手、学習の困難、コミュニケーションの苦手(目が合わせられない、人との距離感がわからないなど)がみられます。
前庭動眼反射
前庭動眼反射は、頭の動きに対して反対に目が動く反射です。(頭が右を向けば反射的に目が左を向く)
歩行やスポーツなど人が動くと、頭部が上下左右に動きますが、それでも対象物から視線を外すことなくブレのない静止画像として物体を認識できるのは、前庭眼球反射があるからです。
この反射の神経経路は、三半規管によって頭部の位置情報が前庭神経へ送られ、そこから眼球運動をコントロールする脳神経(動眼神経、外転神経、滑車神経)で終わります。
また、重力、加速を感知する耳石とつながる経路もあります。
反射的に動いた眼球の情報をもとに小脳が前庭動眼反射を微調整し、対象物がブレないようにしてます。
人が回転すると目が回るのは、前庭動眼反射の回転後眼振が起こるからです。(フィギュアスケートのように回転して目が回らないのは、意識してこの反射を抑制しているからです)
自閉症スペクトラム障害、学習障害においては、回転後眼振の時間が短いという研究報告もあり、基礎的な前庭感覚の機能が上手く働いていないケースも多くみられます。
回転後眼振がみられないこどもは、くるくる回ったりするような行動が多く、前庭感覚への刺激を欲しがる傾向がみられます。
追従眼球運動
追従眼球運動は、目の前に広がる視野が突然動いたときに誘発される反射的な眼球運動です。
体を動かしたときに瞬時に視界のブレを補正することに役立ちます。(前庭動眼反射と共同して働くこともあります)
視運動性眼球反応
視運動性眼球反応は、目の前を連続的に移動する対象物(スロットの回転、電車の車両が通過するなど)を正確に追跡するときに起こる眼球運動です。
視覚から前庭へ情報が伝わり反射が始まり、小脳によって眼球運動が調整されます。
物を追従するときの眼球運動はこの後に説明するパースート、サッケードの随意運動も起こっており、視運動性眼球反応を検査すると前頭葉、頭頂葉、小脳の機能低下などがみられると偏った眼球運動がみられます。
例えば、車が絶えず連続して通過するところを見ていると何らかの機能低下があると眼球がほとんど動かない、もしくは左右のどちらかに眼球が偏って車を視界に収めることとなります。
人混みが疲れる、苦手、よくぶつかるといった特徴がみられやすいです。
パースート
動く物体のスピードに合わせて眼球を動かします。
単純な運動ではありますが、物体が動くスピードを予測し眼球がブレないように眼球を動かす必要があるため、以下のように脳のあらゆる領域が関わっています。
- 視覚経路
- 側頭頭頂接合領域
- 頭頂眼野
- 前頭眼野
- 橋
- 小脳
- 視床
- 眼球運動に関わる脳神経(動眼神経・外転神経・滑車神経)
一般的には8歳くらいに洗練されると言われるため、幼少期は動いているものをキャッチすることが苦手です。
サッケード
対象物に眼球を向ける運動です。
パースートとの違いは常に物体を見続けるのではなく、物体から物体に目を動かします。
具体的に言うと、読書は文字から文字へ対象物に眼球を動かすサッケードです。
そのため、読字障害と呼ばれる読むことが苦手なケースは、このサッケードが上手く機能していないこともあります。
サッケードに関わる脳領域は以下のとおりです。
- 前頭葉
- 頭頂葉
- 大脳基底核眼球ループ(前頭眼野・線条体・尾状核・黒質網様部・視床)
- 中脳(上丘)
- 小脳
- 脳幹
輻輳・開散
物が近づいてきたときは、左右の目を寄せて(寄り目)焦点を合わす輻輳、遠くに離れていくときには左右の目を離す開散が行われます。
大脳皮質からの視覚情報は、橋を介して小脳へ伝えられ、中位核・室頂核から中脳そして眼球運動をコントロールする神経を介して非共同眼球運動(左右の目が同一方向に動かない:輻輳では左目は右、右目は左へ動く)が行われます。
また、瞳孔も調整してより鮮明に物をみるため、副交感神経と関わりのある毛様体神経節もコントロールしています。
輻輳・開散ができないと文字を読んでいても目がかすんだり、ぼやけたりし斜視にも関与することが多いです。
中脳レベルは感情に関与するため、心身のバランスを崩していることも少なくありません。
固視
見ようとする対象物を的確に静止像としてとらえます。
固視といっても僅かに揺らいでいますが(固視微動)脳によって補正されて静止して見えます。
体自体も僅かには揺れているため、見ているものをブレないように前庭動眼反射、視運動性眼球反応によって補正し、静止像でみることが可能です。
発達障害のこどもは、固視が難しく1点を見つめているようでも目がキョロキョロ動いたり、焦点を合わすことが難しかったりします。
そのため、ここまで解説してパスート、サッケードも困難です。
脳の機能異常とされる発達障害では、臨床的に脳のあらゆる領域が関わる視覚や眼球運動に何らかの問題を抱えていることが多いです。
発達障害と眼球運動、視覚の関連性
精神障害(うつ、統合失調症、発達障害など)は、眼球運動の問題がみられるという研究報告が複数あります。(参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3783508/)
ADHDでは、サッケードの遅れや衝動抑制サッケード(右を指示したら左を見る)に問題が生じています。
自閉症スペクトラム障害にもサッケードに問題が生じており、小脳と脳幹の機能障害が示唆されています(https://molecularautism.biomedcentral.com/articles/10.1186/2040-2392-5-47)
また、自閉症スペクトラム障害、ADHD(感覚処理障害がみられるこども)ともに視覚異常も認められる研究報告もあります。(参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30031872/ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4023084/
このように発達障害は視覚優位と言われていますが、視覚および眼球運動が特別に優れていることはありません。
仮に視覚の能力が高くても視覚に依存した生活は脳機能も偏りやすく、視覚依存は解決していくことが望ましいです。
絵カードは意味がない?
発達障害は、絵カードを用いてコミュニケーションや決まり事を覚えていく手法がとられることが多いです。
しかし、このように視覚・眼球運動に問題があるケースで効果はあるのでしょうか。
絵カードを利用した療育方法は、効果も示されており個人的には絵カードを否定をするつもりはありません。
また、言葉でのコミュニケーションが難しいケースでは、絵カードはコミュニケーションを育てる有効な手段です。
ただ、視覚や眼球運動の異常がみられるケースにおいては、それらに関連する脳領域も活性化させる手法も取り入れていくほうが効果的ではないかと考えています。
視覚的なトレーニングの要素を取り入れた運動を行った自閉症スペクトラム障害をもつこども(6~12歳)は、反復的な運動および社会的行動の改善がみられたという研究報告があります(参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31814721/
また、発達障害のアプローチにおいてビジョントレーニングに特化した手法を取り入れる療法もあります。
発達障害において絵カード以外にも有効となるアプローチ方法があることは、知っておいても良いのではないでしょうか。
本当の視覚優位は遊びも得意
発達していくなかでは段階的に感覚の優位性は変わり、初期感覚タイプ・視覚優位タイプ・聴覚優位タイプ・視覚、聴覚統合タイプに分類されます(引用元:感覚と運動の高次化による発達臨床の実際:著 宇佐川浩)
視覚優位タイプは、目と手を使う遊び(手を操作する遊び:キャッチボール、輪投げなど)は得意ですが、言葉を使うコミュニケーションが苦手とされています。
聴覚優位タイプは、手を使うことや運動も苦手で視覚を利用した行動が難しいために結果として発語が多くなりますが、みせかけの言葉であることも多く理解力に伝達能力が弱く課題が多くみられます。
視覚や眼球運動が発達していると運動する上で重要な小脳、前庭系の神経システムも発達していることが考えられ、とくに球技が得意なことが多いです。
ただ、ケースによっては手先が不器用、リズム感が無い(スキップやダンスができないなど)などの運動の苦手はみられます。
なぜなら、視覚とは少し異なる領域が重要な要素を占める(大脳基底核、体性感覚など)からです。
眼科医で検査をすることも大切
視力に問題がないからといって、視覚が正常とは言えません。
遠視、乱視、近視などの問題がみられることによって、視機能の発達が阻害されているケースがあります。
これらの問題は、自律神経にも悪影響を及ぼします。
小さいお子さんほど視覚に関する訴えは少ないかもしれませんが、ぼやけたり、字の見にくさなどがみられそうであれば、迷わず眼科を受診しましょう。
目の発達を促そう
目が上手く発達しないと、学習にも困難をきたします。
そのため、目の発達を促すようなビジョントレーニングはとても重要な支援になり得ます。
ただ、初期の発達につまづき(原始反射、前庭感覚の低下、粗大運動の苦手など)がみられるとビジョントレーニングだけでは改善されないこともあります。
理由は、視覚を安定させるためには頭部を安定させる必要もあるからです。
粗大運動が苦手ということは、筋肉や関節の状態を脳に伝える固有受容器を含む体性感覚の問題があり、姿勢を維持することも困難となります。
また、前庭感覚が低下していれば、動いたときに目の位置が安定しません。
このようなことから、眼のトレーニングだけではなく体性感覚や前庭感覚も合わせてトレーニングする必要があります。
例えば以下のようなエクササイズを行います。
- トランポリン
- 縄跳び
- ブランコ
- バランスボールで弾む、バランスをとる
- 手押し相撲
- 原始反射エクササイズ(スターフィッシュ、ミートボール、スーパーマンなど)
目の問題というのは、一般の人ではなかなか気づきにくいです。
病院でも神経システムに詳しい医師でなければ、このような目の問題まで診てもらえません。
カイロプラクティック心は、機能神経学を学びこどもの発達障害に有効なBBIT認定療法士です。
発達でお悩みの人は、一度ご相談ください。
投稿者プロフィール
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伊勢市小俣町でカイロプラクターをしています。
病院では異常が見当たらず、どこに行っても良くならなかった方が体調を回復できるようサポートします。
機能神経学をベースに中枢神経の可塑性を利用したアプローチで発達障害、自律神経症状、不定愁訴にも対応しています。
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