Q:発達障害の子どもは視覚優位というのは本当ですか?
A:「言葉より絵のほうが伝わりやすい」という意味では、その傾向がある子は多いです。
ただし、視覚の能力そのものが優れているわけではなく、目の動き(眼球運動)を含めた視覚機能に何らかのつまずきを抱えているケースが少なくありません。
絵カードを使ってみたのに、思ったほど伝わらない。
そう感じたことはありませんか。
「うちの子は視覚優位だから」と言われて絵カードを取り入れたものの、なぜか定着しない。
そんなふうに感じている方は、少なくないと思います。
私は、機能神経学(脳と神経の働きから体の不調をみる学問)に基づいた発達症に有効であるBBIT認定療法士として、これまで多くの発達でお悩みのお子さんを見てきました。
その中で気づいたことがあります。
「視覚優位」という言葉が、少し独り歩きしているのではないか、ということです。
ここでは、発達障害と視覚優位の関係について、目と脳のつながりからお伝えします。
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そもそも「視覚優位」とは、どういう意味でしょうか
発達障害(とくに自閉症スペクトラム障害)のお子さんは、視覚優位と言われることが多いです。
これは、言葉でのコミュニケーションが苦手な特性をもつ場合、言葉よりも絵や写真などの視覚的なツールのほうが、情報を受け取りやすいという考え方からきています。
実際、絵カードを使った療育(発達を支援するための取り組み)は、効果が示されている方法のひとつです。
私自身、絵カードを否定するつもりはありません。
言葉でのやり取りが難しいお子さんにとって、絵カードはコミュニケーションを育てる有効な手段です。
ただ、ここで知っておいていただきたいことがあります。
「視覚優位」だからといって、「視覚の能力そのものが人一倍優れているとは限らない」ということです。
「目は脳の窓口」と呼ばれる理由
「目は口ほどに物を言う」
このことわざのとおり、目はその人の心の状態を映し出します。
これは神経の働きとしても、似たことが言えます。
目は、形や色、動き、奥行きなどを認識するために、脳のさまざまな領域を使っています。
実は、脳の働きの約30%は、目に関係しているとも言われているほどです。
たとえるなら、目は脳にとっての「入り口」のようなものです。
入り口の動きがスムーズでなければ、その奥にある脳の働き全体にも影響が出やすくなります。
以下は視覚の機能を説明したものとなりますので、専門的な部分は飛ばしたい方は「視覚優位の子も、実は「眼球運動」につまずいていることがある」まで飛ばしてお読みください。
視覚
視覚の情報処理は主に2つの経路があります。
- 腹側経路(網膜⇒視床⇒後頭葉の一次視覚⇒側頭葉)
- 背側経路(網膜⇒視床⇒後頭葉の一次視覚⇒頭頂葉⇒前頭葉)
腹側経路は物体の認識に関与し、背側経路は身体運動(物体の動きとその位置関係および自己の空間的な移動など)に関与しています。
例えば、りんごが部屋に置いてある場合、「りんごを認識するのは腹側経路」「りんごがどこに置いてあるのかは背側経路」となります。
周辺視野
対象物を鮮明にみれる範囲を中心視野、それよりも広範囲で物をおぼろげながらでも認識できる範囲を周辺視野と呼びます。
周辺視野は、物体の動きを感知して次の行動に移すために重要な機能です。
最近ではスマホやデスクワークを見続ける習慣のため、周辺視野の機能が低下していることが多いです。
発達障害では周辺視野が狭いことによって「周りが見えない」「不注意」などがみられ、さらには自律神経とも関わることで「強い緊張感」がみられます。
眼球運動
目は対象物を鮮明にとらえるために、中心視野の範囲に収まるように眼球運動を行う必要があります。
眼球運動は、「反射的」「随意的」に分けることができます。
反射的眼球運動は以下のとおりです。
- 前庭動眼反射
- 追従眼球反応
- 視運動性眼球反応
随意的眼球運動は以下のとおりです。
- パースート(滑動性眼球運動)
- サッケード(衝動性眼球運動)
- 輻輳・開散
- 固視
眼球運動が上手く機能しないと、スポーツの苦手、学習の困難、コミュニケーションの苦手(目が合わせられない、人との距離感がわからないなど)がみられます。
前庭動眼反射
前庭動眼反射は、頭の動きに対して反対に目が動く反射です。(頭が右を向けば反射的に目が左を向く)
歩行やスポーツなど人が動くと、頭部が上下左右に動きますが、それでも対象物から視線を外すことなくブレのない静止画像として物体を認識できるのは、前庭眼球反射があるからです。
この反射の神経経路は、三半規管によって頭部の位置情報が前庭神経へ送られ、そこから眼球運動をコントロールする脳神経(動眼神経、外転神経、滑車神経)で終わります。
また、重力、加速を感知する耳石とつながる経路もあります。
反射的に動いた眼球の情報をもとに小脳が前庭動眼反射を微調整し、対象物がブレないようにしてます。
人が回転すると目が回るのは、前庭動眼反射の回転後眼振が起こるからです。(フィギュアスケートのように回転して目が回らないのは、意識してこの反射を抑制しているからです)
自閉症スペクトラム障害、学習障害においては、回転後眼振の時間が短いという研究報告もあり、基礎的な前庭感覚の機能が上手く働いていないケースも多くみられます。
回転後眼振がみられないこどもは、くるくる回ったりするような行動が多く、前庭感覚への刺激を欲しがる傾向がみられます。
追従眼球運動
追従眼球運動は、目の前に広がる視野が突然動いたときに誘発される反射的な眼球運動です。
体を動かしたときに瞬時に視界のブレを補正することに役立ちます。(前庭動眼反射と共同して働くこともあります)
視運動性眼球反応
視運動性眼球反応は、目の前を連続的に移動する対象物(スロットの回転、電車の車両が通過するなど)を正確に追跡するときに起こる眼球運動です。
視覚から前庭へ情報が伝わり反射が始まり、小脳によって眼球運動が調整されます。
物を追従するときの眼球運動はこの後に説明するパースート、サッケードの随意運動も起こっており、視運動性眼球反応を検査すると前頭葉、頭頂葉、小脳の機能低下などがみられると偏った眼球運動がみられます。
例えば、車が絶えず連続して通過するところを見ていると何らかの機能低下があると眼球がほとんど動かない、もしくは左右のどちらかに眼球が偏って車を視界に収めることとなります。
人混みが疲れる、苦手、よくぶつかるといった特徴がみられやすいです。
パースート
動く物体のスピードに合わせて眼球を動かします。
単純な運動ではありますが、物体が動くスピードを予測し眼球がブレないように眼球を動かす必要があるため、以下のように脳のあらゆる領域が関わっています。
- 視覚経路
- 側頭頭頂接合領域
- 頭頂眼野
- 前頭眼野
- 橋
- 小脳
- 視床
- 眼球運動に関わる脳神経(動眼神経・外転神経・滑車神経)
一般的には8歳くらいに洗練されると言われるため、幼少期は動いているものをキャッチすることが苦手です。
サッケード
対象物に眼球を向ける運動です。
パースートとの違いは常に物体を見続けるのではなく、物体から物体に目を動かします。
具体的に言うと、読書は文字から文字へ対象物に眼球を動かすサッケードです。
そのため、読字障害と呼ばれる読むことが苦手なケースは、このサッケードが上手く機能していないこともあります。
サッケードに関わる脳領域は以下のとおりです。
- 前頭葉
- 頭頂葉
- 大脳基底核眼球ループ(前頭眼野・線条体・尾状核・黒質網様部・視床)
- 中脳(上丘)
- 小脳
- 脳幹
輻輳・開散
物が近づいてきたときは、左右の目を寄せて(寄り目)焦点を合わす輻輳、遠くに離れていくときには左右の目を離す開散が行われます。
大脳皮質からの視覚情報は、橋を介して小脳へ伝えられ、中位核・室頂核から中脳そして眼球運動をコントロールする神経を介して非共同眼球運動(左右の目が同一方向に動かない:輻輳では左目は右、右目は左へ動く)が行われます。
また、瞳孔も調整してより鮮明に物をみるため、副交感神経と関わりのある毛様体神経節もコントロールしています。
輻輳・開散ができないと文字を読んでいても目がかすんだり、ぼやけたりし斜視にも関与することが多いです。
中脳レベルは感情に関与するため、心身のバランスを崩していることも少なくありません。
固視
見ようとする対象物を的確に静止像としてとらえます。
固視といっても僅かに揺らいでいますが(固視微動)脳によって補正されて静止して見えます。
体自体も僅かには揺れているため、見ているものをブレないように前庭動眼反射、視運動性眼球反応によって補正し、静止像でみることが可能です。
発達障害のこどもは、固視が難しく1点を見つめているようでも目がキョロキョロ動いたり、焦点を合わすことが難しかったりします。
そのため、ここまで解説してパスート、サッケードも困難です。
脳の機能異常とされる発達障害では、臨床的に脳のあらゆる領域が関わる視覚や眼球運動に何らかの問題を抱えていることが多いです。
視覚優位の子も、実は「眼球運動」につまずいていることがある
目で物を見るとき、私たちは無意識に「眼球運動(目を動かす動き)」を行っています。
この眼球運動には、大きく2種類あります。
- 反射的に動くもの(前庭動眼反射、追従眼球反応など)
- 自分の意思で動かすもの(パースート:物を追いかける目の動き、サッケード:文字から文字へ目を移す動きなど)
たとえば、読書がスムーズにできるのは、文字から文字へ目をジャンプさせる「サッケード」という動きがうまく働いているからです。
研究では、自閉症スペクトラム障害やADHDのお子さんには、このサッケードの遅れがみられるという報告があります。(参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30031872/ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4023084/
また、頭を動かしても視界がブレないようにする「前庭動眼反射」についても、自閉症スペクトラム障害のお子さんでは、この反射が弱い、もしくはみられにくいケースが報告されています。
くるくる回っても目が回らない、というお子さんを見たことはありませんか。
これは、この反射がうまく働いていないサインのひとつかもしれません。
つまり、「視覚優位だから絵カードが効きやすいはず」という前提そのものが、お子さんによっては成り立っていない可能性があるのです。
Q:眼球運動のつまずきは、見た目でわかりますか?
A:固視(じっと見つめること)が苦手で目がキョロキョロ動く、物を目で追いかけるのが苦手、人と目を合わせにくいといった様子から推測できることがあります。
ただし、正確な評価には専門的な検査が必要です。
気になる場合は、専門家にご相談いただくことをおすすめします。
臨床現場で感じていること
私はこれまで、多くの発達にお悩みのお子さんをみてきました。
その中で印象的だったのは、絵カードを使ってもなかなか定着しなかったお子さんが、目の使い方(固視や追従眼球運動など)へのアプローチを取り入れたことで、少しずつ反応が変わっていったケースです。
もちろん、すべてのお子さんに同じ変化が起きるとは限りません。
ただ、「視覚優位だから絵を見せれば伝わる」と決めつけず、目の動き方そのものに目を向けることで、見えてくるものがあると感じています。
本当に「視覚優位」なタイプには、特徴があります
発達の過程では、感覚の優位性が段階的に変わっていくと言われています(引用元:宇佐川浩著『感覚と運動の高次化による発達臨床の実際』)
本当の意味での視覚優位タイプは、キャッチボールや輪投げなど目と手を使う遊びが得意な傾向があります。
一方で、言葉を使うコミュニケーションは苦手とされています。
もしお子さんが目と手を使う遊びも言葉も両方苦手という様子であれば、それは「視覚優位」というより、もっと根本的な感覚の発達につまずきがある可能性も考えられます。
これは推測になりますが、安易に「視覚優位だから」と一括りにせず、お子さんの様子を丁寧に見ていくことが大切だと考えています。
家庭でできる、目と体の発達を支える工夫
目の発達は、目だけを鍛えれば良いというものではありません。
視線を安定させるためには、頭や体を支える力(体性感覚:筋肉や関節の状態を脳に伝える感覚)も必要だからです。
ご家庭で取り入れやすい遊びの例は以下のとおりです。
- トランポリン
- 縄跳び
- ブランコ
- バランスボールで弾む
- バランスをとる
- 手押し相撲
どれも特別な道具がなくても始めやすいものです。
無理に「やらせる」のではなく、お子さんが楽しめる形で取り入れていただければと思います。
もし、こうした遊びを取り入れても変化が見えにくい、もっと専門的に見てほしいという場合は、まず話を聞くだけでも大丈夫です。
LINEでの無料相談も承っておりますので、お気軽にご利用ください。
原始反射が視覚の発達に影響していることがあります
原始反射(生まれつき備わった自動的な身体反応で、成長とともに統合され消えていくもの)が、年齢を重ねても残っていることがあります。
たとえば、初期に現れる「モロー反射」が残っていると、物をじっと見ること(固視)や両目を寄せて焦点を合わせること(輻輳)が難しくなるケースがあります。
物を集中して見ることが難しいケースでは、その先のステップである「目で物を追いかける」「文字を目で追う」といった力も育ちにくくなります。
このように、原始反射と視覚の発達は、密接につながっています。
原始反射について詳しくはこちらもご参考ください。
原始反射統合エクササイズについてはこちらもご参考ください。
気になるサインがあれば眼科の受診も大切です
視力に問題がないからといって、視覚の発達に問題がないとは言い切れません。
遠視や乱視、斜視、斜位(見た目では気づきにくい目のズレ)などが、視覚の発達を妨げていることもあります。
※遠視、斜位は、とくに気づかれにくいです。
字が見えにくそうにしている、目を細める、極端に物に近づいて見るといった様子があれば、迷わず眼科を受診していただくことをおすすめします。
カイロプラクティック心でのサポートについて
カイロプラクティック心では、機能神経学(脳と神経の働きから体をみる学問)の視点から、お子さんの発達をサポートしています。
第一種認定カイロプラクターとしての構造へのアプローチに加え、BBIT認定療法士としての神経学的アプローチ、栄養コンシェルジュ®としての栄養面からのサポートまで、お子さんの状態に合わせて組み立てています。
視覚や眼球運動へのアプローチは、いきなり目を動かす練習から始めるのではなく、お子さんの状態に応じて段階的に進めていきます。
固視が難しい段階で目を動かす練習は、効果が現れにくいことが多いためです。
神経発達のサポートを通じて、症状が軽減するケースもありますが、すべてのお子さんに同じ効果をお約束するものではありません。
なお、発達障害の診断(ADHD・ASD等)については、必ず医師の診断を受けた上でご相談ください。
「様子を見ましょう」と言われ、なんとなく納得できない。
そんな気持ちを抱えている方は、一度、お話だけでもお聞かせください。
視覚トレーニングの有効性
視覚的なトレーニングの要素を取り入れた運動を行った自閉症スペクトラム障害をもつこども(6~12歳)は、反復的な運動および社会的行動の改善がみられたという研究報告があります(参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31814721/
ここまで解説してきたとおり、視覚優位といわれるお子さんであっても、視覚機能が発達しているワケではありません。
しかし、視覚を使わざる負えない状況であるため、「視覚優位」という言葉が独り歩きし、視覚に頼り切った生活は脳が疲弊します。
それが結果として「癇癪」「メンタル面の不安定」「身体症状:頭痛、睡眠障害、腹痛など」につながります。
臨床的に視覚機能の問題なく、視覚のトレーニングをしないケースは過去にありません。
視覚は脳を活性化させるために有効な手段ではあるため、適切な評価のうえ段階的な視覚トレーニングが今後の成長に有効と考えられます。
Q:視覚優位かどうかは家庭でも確認できますか?
A:完全に判断することは難しいですが、目と手を使う遊びが得意か、言葉でのやり取りはどうかなど日々の様子を観察するヒントにはなります。
気になる場合は、専門家へのご相談をおすすめします。
伊勢市で発達のお悩みを相談できるカイロプラクティック心
「視覚優位だから」という言葉だけで判断せず、目と脳のつながりという視点から、お子さんの様子を見直してみませんか。
カイロプラクティック心(伊勢市)では、構造・神経・栄養の3つの視点から、お子さんに合わせたサポートをご提案しています。
気になることがあれば、まずはLINEで気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

- 施術歴18年 第一種認定カイロプラクター BBIT認定療法士 栄養コンシェルジュ®2つ星の資格
-
伊勢市小俣町にあるカイロプラクティック心の代表です。
施術歴15年以上、1万人以上の施術経験と第一種認定カイロプラクターの資格を保持し、日本カイロプラクティック師協会の副会長を務めています。
慢性的な痛みやしびれ(腰、手足、頸部など)の症状改善の専門家
ほかにも栄養コンシェルジュ®2ツ星、BBIT認定療法士(脳機能ベースに神経可塑性を利用したアプローチを行う)に資格も保有して、筋骨格系、栄養、中枢神経系を介した独自のアプローチを行っています。
自律神経失調症、めまい、頭痛など栄養や中枢神経系が関与する原因に対しても、根本的な改善を行います。
BBIT療法は原始反射統合、感覚統合、脳の側性化、多感覚アプローチなどを用いて発達障害に有効であり、日本に数十人しかいないBBIT認定療法士の一人です。
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