発達障害の支援は、病院や民間の療育施設、ボディーワーカー(ブレインジム、リズミックムーブメントなど)など色々な専門家によって行われていますが、共通する点として体を使った遊びが取り入れられてることです。
体を使った遊びで「言葉の遅れ」「落ち着きがない」「読み書きの困難」など運動面以外の苦手が改善されるのか疑問をお持ちの方も少なくはないのではないでしょうか。
最近の研究では運動で刺激される前庭系が認知機能(言語、記憶など)や精神障害などにも関わっていることが示唆されおり、こどもが楽しみながら続けられる体を使った遊びは、とても大事と言えます。
ここでは、前庭系と発達を促す遊びについて書いています。
発達障害をもつご家族だけではなく、出産を控えている、育児中のご家族は、ぜひ続きをお読みください。
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発達を促す遊び
発達を促す遊びとしては、ブランコ、トランポリン、バランスボールなどの遊びが行わることが多いです。
オーダーメイドにこだわる。職人芸にこだわる。それも大切だけど、誰でも出来てかなりの割合が改善する。というアプローチも大切。
それが宇佐川研、植竹先生考案のバルンポリンだと思う。
ご家庭でもやりやすいのがまたいい。#宇佐川研#バルンポリン#前庭感覚#固有感覚 pic.twitter.com/d0tyMDb5Da
— 新田マサ@凸凹社長。脱教員。 (@masagifted) February 4, 2020
発達を促す遊びの狙いは色々とありますが、前庭系に絞って解説すると「揺れる」「回転する」「加速する」ということがポイントとなります。
こどもと遊ぶためにも前庭系の仕組みを理解しておくと、ご家庭でも色々な遊びを工夫して行うことができます。
前庭系の基礎知識
前庭神経は、耳の奥(内耳)にある三半規管と耳石器(前庭器官)からの情報を各脳領域に送っています。
引用元:日本めまい平衡医学会
三半規管は、「前半器官」「後半器官」「水平器官」の3つからなり、体の回転(頭部の回転)によって三半規管内のリンパ液が動き有毛細胞の刺激を脳に伝えることで体がどのような状態で立っているかの情報を送ります。
耳石器は、卵形嚢と球形嚢主があり、上下左右方向、前後方向の直線加速度を感知して脳へ情報を送ります。
この前庭器官の情報は、安定した姿勢をとるために重要であり、移動中(走る、歩く、跳ぶなど)やバランスが崩れそうになっても瞬時に体勢を立て直したり、安定させたりするのに重要です。
そのため、発達障害ではこの前庭系の神経システムが上手く機能していないことで、姿勢の悪さや運動の苦手がみられることがあります。
前庭動眼反射・耳石ー眼反射
体を動かしているときは、大なり小なり頭部や体が上下左右動いています。
それでも、物を静止した状態でとらえられるのは、反射的に眼球を動かし(前庭動眼反射・耳石ー眼反射)目が一定の方向を向いているからです。
この眼球の反射機能がなければ、物が二重に見えたり、ブレた画像となります。
また、回転したとき(コーヒーカップ、回転いすなど)目が回るのは、前庭動眼反射の影響による回転後眼振という現象がおこるからです。(フィギュアスケート選手の目が回らないのは意識的に一定方向をみて反射を抑制してるからです)
自閉症の子どもは、回転後眼振が全く現れない、もしくは一方向の回転のみ僅かにみられることが報告されています。
頭部に前庭器官があるため、頭部を含めて「回転」「揺れる」「加速」する運動が、前庭系への刺激となります。
前庭系の刺激だけではなく、小脳が微調整を行って正常な運動が行われています。
小脳についてはこちらをご参考ください
前庭系と認知機能との関り
記憶、学習、思考、言語など知的な能力を指す認知機能が、前庭系が関与するという研究報告が複数あり、前庭からの情報は主に以下の脳領域に送られていることが示唆されています。
- 頭頂後頭溝(PIVC)および側頭頭頂接合部
- 前頭頂葉
- 後頭頂葉および内側上側頭皮質
- 帯状回と脳梁膨大後皮質
- 海馬
- 島皮質
前庭からの情報だけではなく、視覚・固有受容器(関節の位置や筋肉の長さなどの情報)などの情報を統合させて自分自身の状態だけではなく、他人および環境下にある物体を把握(空間認知)することができます。
自己の認知
前庭系、視床(視覚、固有受容器などの感覚を統合)の情報を各大脳皮質の脳領域に送ることで、目を閉じていたとしても自分の姿勢、方向、どのような位置にいるかを認識することができます。
自己の認知によって目で確認できない状態でもボールを蹴ったり、投げたりすることもできます。
また、跳んだとしてもどのような状態で空中に存在するかを認知することにより、サッカーのヘディング、走高跳など空中でどのように動けば良いかもイメージすることができます。
空間の認知(対象物までの距離、方向などの情報によって自分の位置を把握)
自己の認知だけではなく、空間認知があることで初めての場所でもランドマークや地図などを参考にして目的地へ向かうことができます。
また、他人から自分がどの位置に存在しているかも脳内で処理されると考えられます。
そのため、空間把握ができていないと相手との距離が近すぎたり、遠すぎたりしてコミュニケーションが上手くとれないことにもつながるのではないでしょうか。
ナビゲーションシステム
ナビゲーションシステムは「自分のいる場所の認識」「目的地について空間的に把握する」「目的地までのルートを描く」ことに関わっているとされています。
前庭系、視床(音、光などさまざまな感覚の情報を統合し各領域に情報を送る)、海馬、頭頂葉などによって、ナビゲーションシステムが形成されていると考えられています。
空間の中に自分自身がどのように存在しているかが解らなければ、極端に言えば自分自身が右を向いているのか左を向いているのかを認識できないため、どのような経路をたどって進めば良いか解りません。
自閉症の特徴で同じ道順を好む傾向がみられますが、ナビゲーションシステムの影響も考えられるのではないでしょうか。
自分の位置感覚が薄れる影響
前庭系からの情報が上手く伝わらないと、自分がどのような姿勢でいるか?どのように動いているか?という認識が薄れてしまいます。
また、重力も感じれていないため、極端に言えば無重力空間と同じ環境となり、眼を閉じるだけで自分がどのような位置に立っているか分かりません。
このようなことから、2本足でバランスを上手くとれないため、常に緊張していることにもなります。
また、新しい場所になると空間認知の乏しさも手伝い、自分にとって危険であると認識してしまいパニックや交感神経が過剰に働く状態(動悸、汗をかく、強い緊張状態となるなど)に陥ることも少なくありません。
交感神経が過剰に働くことが多くなれば、内臓機能(消化・吸収、排泄など)にも影響します。
前庭系と内臓機能は結び付かないように思われるかもしれませんが、乗り物酔いのように前庭系への過剰なストレスによって吐き気や気分の悪さが生じることを考えれば理解しやすいかと思います。
また、幼児期に激しい癇癪を起す場合も、前庭系の乏しさから少しのストレスでもパニックを起こしている可能性があります。
研究でも前庭系は、感情を司る大脳辺縁系とも神経ネットワークを構築しており、自律神経や感情的な行動に影響を与える可能性があると報告されています。(参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5320810/
幼児期の遊びの重要性
最近では、母親一人で育児を任されることも多く、座ったまま遊べるおもちゃ、タブレットやスマホによる動画視聴の時間も多くなっているようです。
また、以前からこどもの運動能力の低下が問題とされていおり、テレビゲームやYouTube動画が一般的になった現代では、幼児期だけではなく学童時期も含めて遊ぶ時間が少なくなっていることが現状です。
情緒や知的な脳の発達は、前庭系から始まります。
乳児では、首がすわり頭部が安定し、寝返り、ハイハイと段階的に運動発達が進むと共に前庭系が刺激され脳も発達します。
そして、2足歩行により前庭系はさらに刺激され、そして公園にあるブランコ、滑り台、走ったり、ジャンプしたりすることも脳の発達には必要不可欠です。
また、他のこどもとボール遊びや追いかけっこなどによって空間認知も発達します。
情緒不安定、言葉や算数など発達の遅れは色々とありますが、発達の基礎となる前庭系の発達が起因している可能性はあります。
そのため、前庭系の刺激となる運動を取り入れていくことで色々な発達の問題が次のステップへ向かえるケースは多いです。
発達の基礎となる前庭系を育てる
体を動かして前庭系を発達させれば、全て上手くいくワケではありません。
しかし、発達の基礎となる前庭系が育っていないことによって、様々な苦手がみられることがあります。
そのため、発達支援では前庭系への刺激が多く行われていると考えられます。
個人的な意見ではありますが、発達の遅れがみられる場合は何が出来て何が出来ないのかを考える必要があります。
例えば、ハイハイが上手くできないのに歩いたり、跳んだりすることは難しいです。
もちろん、その先の言葉の発達にも影響する可能性もあります。
発達の遅れが気になる場合は、基礎となる前庭系を見直してみることも大事になります。(基礎的な発達は前庭系だけではありませんが、、、)
こどもが体を使って遊ぶことは、脳の発達にも重要であるため、親御さんは難しいことは考えず一緒に遊んであげることが大切ではないでしょうか。
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参考文献
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4107830/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3858645/
投稿者プロフィール
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伊勢市小俣町でカイロプラクターをしています。
病院では異常が見当たらず、どこに行っても良くならなかった方が体調を回復できるようサポートします。
機能神経学をベースに中枢神経の可塑性を利用したアプローチで発達障害、自律神経症状、不定愁訴にも対応しています。
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