カイロプラクティック(整体)

痛み(疼痛)とは?

痛みのメカニズムはとても複雑です。

なぜなら、身体の組織が損傷しているからといって必ずしも痛みを感じるとは言えず、反対に痛みがあるからといって組織に損傷がみられるとは限らないからです。

「なぜ??」と思った方は、ぜひ続きをお読みください。

ここでは、最新の知見もふまえて痛みについて解説しています。

痛みの定義

国際疼痛学会は痛みの定義を以下のとおりとしています。

実際の組織損傷や潜在的な組織損傷を伴う、あるいはそのような損傷の際の言葉として表現される不快な感覚かつ感情体験

国際疼痛学会の痛み用語2011年版リストによる痛みの注釈には以下のことが述べられています。

われわれの痛みにはほとんどの場合、直接的な身体原因があることを十分に理解しているが、侵害刺激によって誘発される侵害受容器や侵害受容経路の活動が痛みなのではなく、痛みは心理的な状態である

痛みは、身体にダメージ(組織損傷)を受けただけではなく、感情の関わりがあるとしています。

2020年7月16日に新しい痛みの定義が発表

国際疼痛学会のホームページにて新しい痛みの定義および6つの注釈が発表されました。

定義の内容は以下のとおりです。

実際のまたは潜在的な組織の損傷に関連する、または関連する不快な感覚的および感情的な経験

注釈は以下のとおりです。

  • 痛みは常に個人的な経験であり、生物学的、心理的、社会的要因によってさまざまな程度で影響を受けます。
  • 痛みと侵害受容は異なる現象です。感覚ニューロンの活動だけから痛みを推測することはできません。
  • 個人は人生経験を通じて、痛みの概念を学びます。
  • 痛みとしての経験に関する人の報告は尊重されるべきです。
  • 通常、痛みは適応的な役割を果たしますが、機能や社会的および心理的な健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
  • 口頭による説明は、痛みを表すいくつかの行動の1つにすぎません。コミュニケーションできないことは、人間または人間以外の動物が痛みを経験する可能性を否定するものではありません。

新しい痛みの定義と注釈をもう少し解りやすく解説します。

そもそも痛みは、数値で測れるような客観的なものではなく、その人が感じる主観的な体験に基づいて表現されます。出産の痛みは女性しか体験することがなく、どれぐらいの痛みかは男性では計り知れません。

反対に本人が痛いと言えば、それを否定する根拠はなく尊重されるべきです。

小さい子どもであれば、絆創膏を貼ることで痛みが治まった経験があると少しの痛みでも絆創膏を貼りたがるという傾向もあるのではないでしょうか。このような痛みを経験するたびにどのように対応していくかを人は人生を通じて学んでいきます。

また、痛みに対して不必要に恐怖を与えないように教育する必要があり、急性軟部組織損傷(捻挫、肉離れなど)の処置の新しい概念(PIACE&LOVE)の中にも教育の重要性が含まれるています。

痛みは体の異常を知らせるものであり自然と消失していきますが、場合によっては神経機能の変性や社会的(仕事、家庭など)心理的(恐怖、不安など)に悪影響を及ぼします。

痛みの表現は人それぞれであり、上手く表現できないからと言って痛みの程度が軽い、痛みがないと判断することはできません。

痛みの種類

痛みは組織自体を損傷する侵害受容性疼痛および神経障害性疼痛、組織損傷がみられず客観的な痛みの原因が欠如している心因性疼痛の3つに分類されます。

心因性と聞くと「ただのストレス??」と感じるかもしれませんが、神経生理学的は脳が関与しそれらの影響を受け疼痛をコントロールできていないことが予測されます。

侵害受容器性疼痛

関節、筋肉、皮膚などの組織には侵害性の刺激を受け取る侵害受容器があり、痛みとして脳に伝える役割があります。また、侵害受容器にも以下のとおりいくつか種類があります。

  • 温度侵害受容器(45℃以上、5℃以下の極端な温度刺激によって痛みを感じる)
  • 機械侵害受容器(殴打、針が刺さる、引っ張られるなど組織に加えられた強い刺激を痛みと感じる)
  • ポリモーダル侵害受容器(炎症によって生成された化学物質によって痛みを感じる)
  • サイレント侵害受容器(内臓にあるとされ詳細は現在のところわかっていません)
侵害受容性疼痛の一例

転倒して膝を打撲した場合、まず機械侵害受容器が反応し、脳に痛みを伝えます。このときAσ線維と呼ばれる神経線維によって素早く脳に痛みが伝達されます。

そして、組織が損傷すると修復のために炎症反応が起こり、それに伴い化学物質が生成されポリモーダル受容器が反応します。このときは、機械侵害受容器とは反対に最も伝達速度の遅いC線維によって痛みが伝達されます。

交通事故でのむち打ち症の痛みが遅れてくるのは、このC線維の影響と考えられています。

神経障害性疼痛

神経の障害を受けた部位により、中枢性と末梢性に分類さています。

ただ、侵害受容器性疼痛と混在したり、中枢性と末梢性が混在したりする場合があります。

中枢性神経障害疼痛

中枢性疼痛は、「中枢神経の損傷や機能障害による痛み」とされ、脳や脊髄の損傷や機能障害(脳疾患、脊髄損傷など)が原因となり、痛みを引き起こします。

末梢性神経障害疼痛

末梢性神経障害性疼痛は、末梢神経への外傷や疾患によって引き起こされ、以下の病態生理が関与するとされます。

  • 末梢神経への直接的な刺激損傷した
  • 末梢神経の自発的発火
  • 交感神経依存性疼痛
  • 内因性の疼痛抑制の破綻
  • 中枢神経系の感作と求心路遮断による神経系の再構築
神経障害性疼痛の特徴

神経が障害されることで灼熱痛、チクチク感、うずくような痛みを感じることが多いです。

また知覚(触られる、温度感覚など)において、過敏性および鈍麻がみられることもあります。

神経障害性疼痛の主な疾患は以下のとおりです。

  • 神経絞扼障害(手根管症候群、胸郭出口症候群など)
  • 糖尿病
  • 帯状疱疹
  • 複合性局所疼痛症候群
  • 幻肢痛

神経障害性疼痛は、圧迫や損傷による神経障害だけではなく、幻肢痛や複合性局所疼痛症候群など中枢神経(脳および脊髄)の痛みの処理に異常がみられる機能異常も含まれます。

心因性の痛み

国際疼痛学会の痛みの定義でも情動体験という言葉が記されてるように、心に原因がある痛みも存在することを明示しています。

心理的な痛みとして、夫が妻の陣痛を感じる擬娩症候群があります。

また、痛みではありませんが、偽薬を飲んでも症状が緩和してしまうプラセボ効果があるように心理面で快、不快を痛みとして感じとることを考えると心の問題が痛みに影響しても不思議ではありません。

心と痛みの関係性

主観的な体験を感情といい、行動を伴っているものを情動といいます。

引用元:「眼と精神」

人の意識的な行動にはほとんど感情が伴います。

例えば、近くのコップを取る動作は、まずコップを取りたいという想いによって行動しています。

情動の生物学的理論として、情動はシナプス接合部の化学的反応に過ぎないとされることから、心の問題も身体の機能に影響するとも言えるのではないでしょうか。

生物学的理論(脳科学)から心の問題を紐解く

慢性的疼痛症候群と気分障害は、よく似た脳領域が活動します。

ネガティブな行動/態度や感情⇒右脳の過剰活動⇒左脳の活動低下(脳派測定による)

この傾向が慢性疼痛症候群にもみられるそうです。

では、なぜ脳の活動が痛みに関わるのでしょうか?

 

脳を含めた中枢神経システムの1つに、下降性疼痛抑制回路があります。

下降性疼痛抑制回路は、以下の2系統あります。

  • ノルアドレナリン系
  • セロトニン系

下降性疼痛抑制回路は中脳からそれぞれ脳幹、延髄などを経由して、脊髄後根にある一次侵害受容ニューロンと二次侵害受容ニューロンの間にある伝達経路をブロックするように抑制的に働き痛みを抑えます。

このメカニズムを利用して痛みを抑えているのが抗うつ薬です。

下降性疼痛抑制回路は大脳皮質(前頭前野、島皮質、帯状回)からも情報を得て働いています。島皮質、帯状回は感情に関わる領域であり、前頭前野はストレスにより機能が低下することが研究で報告されています。

このようなことから、ストレスやマイナスの感情(不安、恐怖など)が大きくなると大脳皮質からの情報にエラーが生じ、結果として下降性疼痛抑制回路による痛みのコントロールが難しくなります。

また、大脳皮質は自律神経をコントロールする視床下部とも情報交換をしているため、大脳皮質からの情報エラーは自律神経症状(動悸、めまい、疲労感など)を誘発します。

心の問題と言っても、体の中ではこのような神経システムのエラーが生じることで痛みを強めているのです。

神経感作(神経システムの問題による慢性痛)

慢性的な痛み(3ヶ月以上続く痛み)は、痛みの改善が急性期に比べ難しくなります。

その理由の1つに神経感作と呼ばれる神経システムの問題が生じている可能性があるからです。

 

神経感作には末梢性感作中枢性感作があり、本来は痛みとして感じない刺激を受け取ってしまう過敏な状態にることです。

末梢性感作

末梢性感作は、組織損傷がおこると炎症が生じ、発痛物質や発痛増強物質が産出され侵害受容器が過敏になります。

組織損傷によって生じる痛みは大きく2種類に分かれ機械刺激のみに反応する1次痛と発痛物質、発痛増強物質にも反応するポリモーダル受容器が鈍い不明瞭な2次痛です。

発痛物質が生成され続けると結果として、侵害受容器の反応を高め過敏な状態を作り出します。

中枢性感作

中枢性感作は、脊髄後角の二次侵害受容ニューロンが過敏な状態になります。

痛みの伝達経路を大まかに説明すると以下の通りです。

侵害受容器⇒末梢神経(Aσ繊維、C線維など)⇒脊髄後角⇒前外側系神経路⇒視床⇒脳(痛みの知覚、認知、情動、記憶)

末梢神経終末から神経伝達物質が放出され二次侵害ニューロンについている受容体を活性化させる電気的興奮をおこして、脳に痛みの部位や強さを伝えます。(先に解説した下降性疼痛抑制回路は二次侵害ニューロンの活性化を抑制します)

中枢性感作は、正常な伝達が中枢で誤って解釈され「痛み」として感じられるようになるため、初期の組織損傷が回復しても痛みが継続してしまいます。

慢性痛は組織を回復させるのではなく、いかに神経システムを正常に戻すかが重要となります。

BPSモデル

痛みの定義にもあった「常に痛みは生物学的、心理学的、社会的要因によってさまざまな影響を受ける情動体験」の一文はBPSモデルを現しています。

BPSモデルは、Engelによって1977年に提唱された概念であり、bio-psycho-social(生物心理社会)の略です。

元々の痛みの定義から心理面は考慮されていましたが、社会学的な背景(仕事、家庭など)によって、痛みを誘発することが考えられるようになり、以前より多面的に痛みの原因を顧慮してアプローチする必要性があります。

生物学的(biological factors)

組織損傷や人の動作、侵害受容など人の構造や機能面が関与します。

心理学的(apsychological factors)

情動、信念、期待など心理的要素が関与します。

精神疾患をもつ人が頭痛、顎関節症、頸部痛などを併発しやすいことからも心理学的に痛みは研究されています。

社会学的(social factors)

仕事、家族、教育など社会的な関りのことを指します。

社会学的な問題として、腰痛患者は仕事の不満を抱いている人に多い研究報告があります。また、家族間では夫原病といった夫からのストレスにより体調を崩すケースもあります。

臨床的には、転職したら今までの痛みが嘘のように無くなった、夫もしくは妻、お姑さんが外出しているときは痛みがないなどもみられます。

これらのことが相互作用することによって痛みを感じると提唱しているのがBPSモデルです。

痛みは主観であることを理解することが大事

痛みの程度は客観的に評価する方法はなく、痛みは主観的です。

病院では痛みがある人に対して画像検査(レントゲン・MRIなど)で客観的な問題を評価しようとしますが、近年の研究では画像でみられる問題と痛みが一致しないことが多く報告されています。

症状のない人の椎間板変性は、20代で37%、80代では96%に増加しています。他の所見でもディスク膨らみの有病率は、20代では30%、80代では84%に増加し、椎間板の突出(ヘルニア)率は、20代では29%、80代では43%に増加

参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25430861

無症状のNBA選手20人(両膝)をMRI撮影をしたところ関節軟骨の損傷が47.6%認められました。

参考文献⇒https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15891721

一般の人や医療従事者は、痛みの原因を構造的な問題だけを考えがちです。しかし、それだけでは説明できない現象は多くあり、痛みの定義の注釈でも侵害受容と痛みは別の減少と明記してあります。

気をつけたいのは、病院での診断に異常がないからと言って「気のせい」と他人が決めつけることです。

先にも書きましたが痛みは主観であり、本人が痛いと言えばそれを否定できる理由は1つもないのです。仮に嘘をついていたとしても、痛いと嘘をつく理由を考えて、対処していく必要性もあるでしょう。

反対に主観である痛みは、本人の考え方や行動などで痛みを和らげることも可能であると考えられます。そのため、医療従事者、セラピストが痛みについて正しい知識を提供することも疼痛治療には大切です。

痛みへの対処法

この動画は、とても解りやすく慢性疼痛の対処法を解説しています。

 

痛みのメカニズムは複雑で、ときには組織損傷が回復したとしても痛みを感じとってしまいます。

まず、できることは初期の段階で適切な処置をすることが大切です。

そして、痛みに対して必要以上に不安がらなずに痛みのない範囲で、趣味や日々の生活を楽しむことが慢性的な痛みの予防になります。

痛みを理解することが痛みから解放される

痛みを理解している人は、残念ながら医療従事者も含めて多くありません。

そのため、一般の人も悪循環に陥いり、慢性症状から回復できないケースも多いです。

このように情報を発信することで、痛みは多面的であることを1人でも多くの方にご理解いただければ、慢性症状に苦しまずに済む人も増えるのではないでしょうか。

痛みと上手に付き合うことで、より楽しい人生を歩めることを切に願っております。

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