野球は投球動作を繰り返す競技特性から、外傷(打撲、骨折、捻挫など)を除くと肩や肘のケガが多いです。
とくに小学生では肘、高校生では肩の障害が多いとされています。(引用元:スポーツリハビリの臨床)
一般的なストレッチやエクササイズによる予防方法は、現在ではネットや書籍で情報を得られます。
しかし、これらの方法では回復しないケースもあり、そのような場合は体の神経システムに問題が生じている可能性が高いです。
野球のケガ予防を神経システムに注目して書いていきます。
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投球動作について
投球は下半身の動きも重要であり、重心移動および骨盤部から体幹、上肢を回転させる運動をスムーズに移行していくことで、身体に負担なくボールを早く遠くに投げることができます。
詳細な投球動作のバイオメカニクスは割愛致しますが、投球動作に問題が生じるとケガの発生率が高まります。
床反力の重要性
投球フォームの重要性は競技をしていれば十分に理解していることかと思います。
野球に限ったことではありませんが、スポーツをする上では床反力(足裏と接する地面から生じる反発力)を上手く利用することが大事になります。
野球の投球動作では、ワインドアップから足を踏み込むまでの重心移動時(右投げであれば左の軸足)および踏み込み足で大きな床反力が生じます。
これらの床反力は、ボールリリース時の手の速度と関連すると報告されています。(参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9474404/、https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26402471/)
パフォーマンスを高めるためには床反力を利用することが重要であり、言い換えれば床反力をもらわずに強く早い球を投げようとすれば、肩や肘への負担は大きくなるということです。
投球時の部位別にみられる活動
投球では、肩・肘の障害が多いことから当然ながらそれらの部分に大きな負荷がかかります。
これは良い投球フォームであっても変わらない問題であり、プロの選手でも肩や肘のケガが多くなる一つの要因と言えるのではないでしょうか。
投球時の肩への負担
コッキング期は(踏み込んだ後から肩が最大外旋するまで)胸が開き始めるため、肩が水平に外転する動作が加わります。
そこから、その肩関節で生まれた弾性エネルギーだけではなく、下半身から体幹までの回旋エネルギーを使ってボールをリリースします。
このときに肩周辺の筋肉は伸ばされながらも力を発揮する(遠心性収縮)ため、ダメージを受けやすく投球フォームによっては骨同士が衝突するインピージメント障害を起こすことがあります。
投球時の肘への負担
成人男性では、投球時にかから肘外反ストレスは内側側副靭帯の破断強度を超えるほど肘への負担が大きいです。(小学生でも投球フォームが悪いと破断強度を超えるとされています。)
これは、投球制限が必要なひとつの要因でもあります。
投球時の体幹への負担
投球時(コッキング期以降)に体幹は、側屈(体を横に倒す)回旋(体を捻じる)前傾(体を前に倒す)が行われ、正常に行われなければ肩・肘への負担が大きくなります。
骨盤部の回旋を止めて体幹部(腹部より上)を回旋できる選手ほど、球速が早いという研究報告もあります。
しかし、球速が早いほど体幹の回旋エネルギーも大きいと言え、それが結果として腹斜筋(インナーマッスルと呼ばれる腹筋群)の肉離れにつながるケースもあります。
ケガの予防は日々の積み重ね
投球フォームは、体格や身につけている技術などによって人それぞれ違いはありますが、ケガを少なくできるポイントを抑えていくことは大事です。
また、良い投球フォームであっても体にかかる負担は大きいため、日々のケアは忘れずに行っていく必要があります。
フォームづくりやケガに対するリハビリ方法(筋トレ、ストレッチなど)は、ネットや書籍で情報収集できるためここでの詳細は割愛させていただきます。
参考図書としては以下がお勧めです。
横浜医科学スポーツセンターの経験豊富な医療スタッフの書籍です。
日本のトップアスリートもここでリハビリに励むことが多く、適切な正しい情報が記されているため、エクササイズ、ストレッチ方法などを参考にすると良いです。
機能神経学で考える適切な運動
機能神経学は、身体に神経システムに注目しています。
最近では神経系のリハビリも取り入れられることもあり、回復が遅れているケースにおいては希望となる考え方です。
機能神経学を踏まえた考え方としては、身体の使い方は最終段階であり、それまでに感覚のインプット能力の正常化、インプットした感覚を適切に処理してアウトプットできるようにする必要があります。
感覚の入力とは
運動というのは、以下のような感覚をもとに行動を決定します。
- 足の捻挫など痛みをかばい、他の部位を使う代償運動によってパフォーマンスを維持する
- 凹凸のある荒れ地でも足底の感覚でバランスをとりながら運動をする
- ボールが身体に向かってくる(視覚)避ける動作を無意識に行う
- ボールを投げやすいように肘、肩、膝、股関節など関節位置(関節の位置覚)を調整する
- 打球が足に当たると反射的に足を引っ込めるが、他の部位を使ってバランスを保つ
視覚、聴覚、触覚、固有感覚(関節の位置、筋肉の長さなど)など身体は常に感覚を受け取りながら、身体の動きを調整しています。
感覚の適切な処理
例えば、覚えたての変化球を外角の低めにコントロールして投げる練習をするとします。
初めは変化球の変化具合、コントロールも上手くはいかないことが多いです。
しかし、投球を繰り返すことで指の引っかかる感覚、力の入れ方、どの辺りに向けて投げれば外角低めに行くのかなどを適切に処理できるようになり、最終的に変化球をコントロールできます。
神経システムのエラーでなぜケガをする?
神経システムのエラーでは、以下のような問題が生じることが考えられます。
- 関節の位置感覚に問題がある⇒関節の可動範囲がコントロールできず、骨同士の衝突、筋肉への負担の増強
- 視覚の問題⇒目に見える情報を得られないため、余分な筋緊張、バランスなどに能力を使う必要がある
- 感覚が処理できない⇒苦手な動きが克服できない、適切に体が動かせない
スポーツにおいて考えてから動作に移行することは、プレー速度を落とすことになります。
投球でも「次はこの関節を曲げて」「このタイミングでボールを離して」など考える人はおらず、感覚で投げていると言えます。
このように無意識下で適切に体を動かすには、神経システムが正常に働いている必要があります。
トレーニングをしっかりしてもケガが多い、何度も再発するケースなどは、神経系システムに問題が生じていることが多いです。
野球のケガ予防方法を神経システムで考える
スポーツ全般では体幹トレーニング、野球では肩のインナーマッスルトレーニングが行われることが多いです。
しかし、やり方によっては効果は得られません。
体幹部分は神経システム(網様体)でコントロールされ、適切に活性化させることで手足を連動させることができます。また、肩のインナーマッスルも脳の神経システム(脊髄小脳)が関わります。
そのため、神経システムが正常に活動していない状態で体幹トレーニングやインナーマッスルを鍛えても働けない部分を無理やり動かすことになり、結果が現れにくいです。
ここでは詳しく解説しませんが、単純なシットアップ、ツイストを入れたシットアップではなく、手足を連動させたデッドリフト、ランジなどのほうが体幹トレーニングとしては有効です。
インナーマッスルでは小脳を活性化させるバランス系(バランスボードで腕を支える)小脳エクササイズ(眼球運動、運動調整など)を組み込んだほうが効果的です。
床反力を利用するには前庭神経が重要
床反力を上手く利用するには、足底を含めた感覚器で正しく情報をキャッチし、それを前庭神経を介して処理する必要があります。
前庭神経は、自分の位置を把握(体がどのように移動しているか、空間内でどのような状態で立っているかなど)して身体を動かすために重要な神経です。
宇宙飛行士が地球に帰還後、歩くこともできないのは無重力空間で前庭神経を使わずに生活し、その機能が低下していますことが起因しています。
バランス感覚が悪い、乗り物酔いしやすい、姿勢が悪くみえる、お腹の調子が悪いなどがみられると前庭神経の機能低下みられるケースが多いです。
これらの徴候がみられる人は、前庭神経機能を評価、アプローチすることも大事と考えられます。
神経システムから紐解くことで道が開ける
通常のエクササイズ、ストレッチでも十分に効果を得て競技復帰、再発予防ができます。
しかし、神経システムという視点から競技復帰、再発予防を考えていくことで症状の改善が遅れていた選手の競技復帰を早めたり、ケガを少なくすることができる可能性があります。
競技復帰したい、パフォーマンスを向上させたい人は、一度カイロプラクティック心にご相談ください。
投稿者プロフィール
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伊勢市小俣町でカイロプラクターをしています。
病院では異常が見当たらず、どこに行っても良くならなかった方が体調を回復できるようサポートします。
機能神経学をベースに中枢神経の可塑性を利用したアプローチで発達障害、自律神経症状、不定愁訴にも対応しています。
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