一流アスリートが体幹トレーニングを取り入れていることが知られ、体幹トレーニング(インナーマッスル)を行う人も多くなりました。
また、腰痛予防にもなるとされており、整骨院や整体でも体幹トレーニングと称したインナーマッスルに電気刺激(EMS)を加える手法もみられるようになりました。
しかし、体幹トレーニングをしても腰痛を発症をしたり、ケガをしたりするケースも多いです。
一流アスリートもインナーマッスルを鍛えることに疑問をもっています。
いつも思うのだけど「インナーマッスルを鍛えましょう」だの「インナーマッスルを鍛えておけば怪我は予防できる」とか言っている人はどこの筋肉をインナーマッスルだと言っているんですかね?
— ダルビッシュ有(Yu Darvish) (@faridyu) October 17, 2016
そもそも、体は1つの筋肉だけを使うことはなく複数の筋肉が協調するため、インナーマッスルだけを鍛えることは不可能です。
最近では神経科学の進歩により、中枢神経系(脳)を介した姿勢制御や運動制御が体幹機能には重要であることが解っています。
間違った手法で体幹トレーニングを導入してもスポーツのパフォーマンスは上がらず、貴重な練習時間を無駄にします。
また、腰痛予防になるどころか、やり方によっては腰痛を引き起こしやすくなります。
ここでは研究結果も踏まえて、体幹トレーニングについて考察していきます。
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体幹トレーニングとは?
体幹は腹筋だけではなく臀部(お尻)背部も指しますが、一般的には腹筋や深層の筋肉(インナーマッスル:腹横筋、腸腰筋など)のトレーニングを想像される方が多いです。
※図は左からプランク、シットアップ、ドローイン
なぜ体幹トレーニングが注目されたのか
HodgesとRichardsonが発表した研究では、上肢の運動(肩関節の屈曲・外転・伸展)時の腹横筋の筋活動が調べられ、腰痛歴のある人はない人と比べて腹横筋収縮のタイミングが遅いと報告されました。(参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8961451/)
インナーマッスルの1つとされる腸腰筋は、日本人スプリンターに比べ海外選手のスプリンターがとても発達していることが報告されています。
また、転倒の少ない高齢者は腸腰筋が発達していたことが医師の調査でわかりました。
これらの研究や調査を発端としてトレーニング業界、治療業界では腹横筋や腸腰筋が注目され体幹トレーニングが始まったようです。
体幹とは大殿筋や中殿筋など股関節付近の筋肉も含まれますが、一般的にはインナーマッスルと呼ばれる腹横筋、腹斜筋、腸腰筋を鍛えることを体幹トレーニングと呼ぶことが多いです。
筋力がつけば体幹は安定する?
スポーツ選手では、「体幹が安定している」と表現されることがあります。
筋力がつけば体幹は、安定するのでしょうか?
結論から言えば、筋力だけでは体幹が安定しているとは言えません。
先述した研究報告のように上肢(手、腕)下肢を動かしたときに、先行して腹横筋が活性化させる必要があります。
また、全体の筋肉のなかでは腹横筋が発揮する力は弱く、筋力という点では腹直筋、大殿筋などアウターマッスルと呼ばれる筋肉のほうが強い力を発揮します。
このようなことから、筋力をつけるのであれば、ウエイトトレーニングのほうが有効です。
また、腹横筋がタイミングよく活性化させるためには、中枢神経系を介したアプローチや姿勢制御を目的としたエクササイズなどが必要となります。
スポーツ・日常生活で必要な体幹の安定性とは
まず腰を痛めるケースで多いのは、不意の動作(床の物を拾う、物を取るために体を捻るなど)です。
また、スポーツでは1つ1つ動きを意識していては、プレーのスピードについていけません。
そのため、スポーツ・日常生活では無意識下でその場面に応じて、体幹をコントロールしなければならないと考えられます。
必要に応じて体幹を固め(コンタクトプレー、こどもを抱っこ、不意に誰かとぶつかりそうになるなど)ケースによっては体幹部を捻ったり、傾けたりしても上肢と下肢が連動することが真の体幹の安定性と言えます。
体幹トレーニングの問題点
一般的に行われている体幹トレーニングは、腹筋および、腹横筋、腹斜筋、腸腰筋などのインナーマッスルを鍛えることを目的とすることが多いです。
しかし、研究では腰痛予防に効果がなかったり、パフォーマンス向上に効果がみられなかったりします。
パフォーマンスを向上させるために行う場合、目まぐるしく変わる状況のなかで静止した状態のトレーニングだけでは不十分と言えます。
ドローインでは腹横筋は鍛えられない
ドローインは腹横筋に刺激を与えるエクササイズとして、ヨガ、ピラティスなどでも行われることが多いです。
しかし、ドローイングはブレーシング(お腹を凹まさずに力を入れる技法)に比べ、体幹の安定性を減少させるという研究報告があります(参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17207676/)
ドローイングをしながらにエクササイズは腰部の障害リスクを高めることも示唆されています。
また、腹横筋がどのポジションで活性化するかを比較した研究では、仰向けでブリッジしながらブレーシングしたポジションが最も腹横筋が活性化したと報告されています(参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6944888/
※腹部の内圧が高まった状態での腰痛(くしゃみや咳で腰が痛む)骨盤底筋の機能低下(尿漏れ)などでは、腹部の内圧を下げるドローイングは有効です。
ブレーシングは体幹の安定化に優れ、ウエイトトレーニングで用いられることも多いです。
しかし、腹横筋は適切に活性化することが重要であり、コンタクトスポーツや日常でブレーシングののように意識的に体幹を安定させる場面は多くありません。
シットアップで腹直筋は鍛えられない
一般的に体を全部起こすシットアップは、腹直筋ではなく腸腰筋の活動が大きいです。
また、腸腰筋は腹筋群や大殿筋と相反する筋肉でもあり、過剰な腸腰筋のトレーニングは腰痛の原因になるケースも少なくありません。
シックスパックを作るためにシットアップを含めた腹筋を行われることもありますが、効果的とは言えません。
まず、シックスパックを作る場合は、体脂肪を減らす方が効果的です。
競技特性上、脂肪も必要な力士は、筋力はアスリートの中でも随一ですが、シックスパックがみられず、脂肪をそぎ落とした女子の陸上選手のほうがシックスパックがみられることを考えれば理解しやすいのではないでしょうか?
また、筋肉を魅せる競技であるボディービルダーは、私の知る限り腹筋を中心としたトレーニングに時間を割く人はいません。
シットアップが無意味とは言えませんが、シックスパックを作る目的であっても他の方法が有効と考えられます。
EMSでパフォーマンスアップ、ケガ予防は難しい
ケガで動けないケースにおいては、現在の筋肉量を維持するためにEMSを利用することは悪くありません。
しかし、体幹の安定性は動きの中でしか獲得できないため、寝ている状態でEMSを利用しても効果は期待できないです。
一流アスリートが利用しているような宣伝も目にしますが、高レベルのトレーニングを日々積み重ねていることは理解しておく必要があるでしょう。
腰痛に体幹トレーニングが必須ではない
以前は腰痛のケースは体幹周りを鍛えることが推奨されていましたが、現在では社会的因子(人間関係、仕事など)心理的因子も含めて包括的なアプローチが必要であると言われています。
また、慢性的な腰痛ほど、腰部の一部分を活動させていたり、常に腰部を緊張させていることが多いです。
そのため、負荷に耐えうる体を作る意味では体幹トレーニングも1つの方法にはなりますが、部分的な活動や常に腰部を緊張させる原因を解決するほうが腰痛改善には有効と考えられます。
体幹の安定性は姿勢制御システムが重要
先にも触れましたが、手足を動かす前段階で体幹部が安定する必要があり、その要素の1つとして腹横筋や腹斜筋があります。
また、意識的に動かすことはできませんが、背骨の安定化に重要な深部の脊柱起立筋群(横突間筋、棘間筋、回旋筋など)なども重要です。
これらの筋肉は大きな力を発揮せず、意識的にコントロールして鍛えることは難しいですが、無意識化で体幹部を安定させる重要な役割があります。
意識的に動かす運動には、大脳皮質から脳幹への皮質網様体が先行して姿勢制御に関与するとされています。(参考文献:大脳基底核の運動制御:高木草薫)
小難しい姿勢制御の話は割愛いたしますが、単純に手足を利用した運動で十分に体幹が使われていることを理解していただければ良いです。
例えば、お腹に手を当てて、手を前に出して小刻みに振るだけでも、腹部が固くなることが感じられます。
それを考えれば、いかに手足を動かすスクワット、デッドリフトなどでも十分、体幹部が鍛えられることが理解できるのではないでしょうか。
背骨の弯曲が重要
背骨には、生理的弯曲(S字弯曲)があります。
この生理的弯曲の状態で、背骨を安定させる脊柱起立筋群が適切に働きやすくなります。
また、適切な可動域が重要です。
しかし、胸を張る姿勢を意識するあまり、胸部の弯曲が消失し、さらに屈曲動作(背中を丸くする動作)まで損なっている人は多いです。
また、スクワット時の腰部の前弯を意識するあまりに腰部の緊張状態が強く、寝た状態でも背骨が浮いてしまう人も少なくありません。
この状態で強度の強いエクササイズを行っても、体を痛めやすいです。
そのため、姿勢制御を含めた背骨の可動域を回復させる必要があります。
運動には感覚が重要
感覚とは、触覚、固有感覚(関節の位置や筋肉の緊張度など)平衡感覚、聴覚、視覚などのことを言います。
これらの感覚を駆使することで、現在の自分の身体の状態を把握し、運動を行うことができます。
例)
- 凸凹の道を歩く⇒足裏で地面の傾斜を感じたり、視覚で凹凸具合を予測したりしてバランスを取りながら歩く
- 床の荷物を持ち上げる⇒自然に関節の角度を調整し、指や腕にかかる荷重を感じ取り筋肉の出力を変化させる
- 脚を痛める⇒足を傷めないような姿勢や歩行に変化する
このように感覚を無くして、運動を行うことはできません。
カイロプラクテイック心では、慢性症状の改善および予防、スポーツのパフォーマンスアップを目的に感覚エクササイズを取り入れています。
腰痛の原因は姿勢制御のエラー
腰痛では姿勢制御をはじめとした、神経システムのエラーが生じていることがあります。
ストレスが腰痛に起因するとも言われていますが、ストレスは大脳皮質の前頭葉に機能を低下させるという研究報告もあり、姿勢制御に関わる皮質網様体に影響を及ぼすことが考えられます。
また、姿勢のコントロール中枢でもある脳幹部の異常により、過剰な姿勢反射が現れると腰を痛める原因になります。
このようなケースでは、体幹トレーニングを行う前に神経システムを評価して修正する必要があるでしょう。
体幹トレーニングの効果を上げるには?
先に紹介したシットアップ、プランク、ドローインは目的に合わせて行えば良いですが、スポーツのパフォーマンスアップ、ケガ予防としては十分とは言えません。
手足の運動を伴うことで自然に体幹を使うことになるため、自分のレベルに合った重量を上げるウエイトトレーニングがお勧めです。
ただ、専門的に評価して感覚のレベルが落ちている場合は、感覚を上げるエクササイズ(バランストレーニング、ビジョントレーニングなど)も平行したほうがケガ予防、パフォーマンスアップにはつながるでしょう。
最近では、プロのアスリートもウォーミングアップや競技練習に感覚向上を目的としたトレーニングを取り入れているシーンを多くみかけるようになりました。
自宅で行う体幹トレーニング
自宅でも体幹トレーニングと称するエクササイズではなくとも、手足を使った運動(ウォーキング、ジョギング、スクワット、腕立て伏せなど)で十分な体幹トレーニングとなります。
ただ、同じトレーニングを続けるのではなく、色々な動きを行うことで経験値も上がり、色々なケースで身体の対応力があがるため、バリエーションもあると良いです。
一例として、以下のようなエクササイズをご紹介します。
体幹トレーニングに固執する必要はない
書籍やネットでみられる体幹トレーニングが悪いわけではありません。
ただ、そのトレーニングだけでは得られる効果は不十分であり、人によってはスポーツのパフォーマンスも上がらずケガをしやすくなる可能性もあります。
スポーツ選手であれば、まずはウエイトトレーニング(できれば専門家に指導してもらう)で十分に体幹の強化ができます。
そして、その合間に感覚を入力するようなエクササイズを行うと良いでしょう。
ケガの多い選手は、感覚に問題があるケースもあります。
体幹トレーニングで効果を実感したアスリートは、ダブルタスクおよびトリプルタスクの感覚入力、バランストレーニングによる前庭系、小脳に上手く刺激が入ったからだと個人的には考えています。
一般の人は、体幹トレーニングと呼ばれているものは比較的に安全にできるため、取り入れても良いでしょう。
しかし、ウォーキング、ジョギングなどの有酸素運動、体幹トレーニング以外のエクササイズも組み合わせていくことをお勧めします。
体幹トレーニングを含めたトレーニングを受けたい方は、パーソナルトレーニングをご利用ください。
投稿者プロフィール
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伊勢市小俣町でカイロプラクターをしています。
病院では異常が見当たらず、どこに行っても良くならなかった方が体調を回復できるようサポートします。
機能神経学をベースに中枢神経の可塑性を利用したアプローチで発達障害、自律神経症状、不定愁訴にも対応しています。
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