「成長期に筋肉をつけすぎると背が伸びない」と聞くこともありますが本当でしょうか?
全国レベルのチームでは、筋力トレーニングを取り入れているところもあり、最近では体幹トレーニングを実施しているところも少なくありません。
ただ、スポーツの強豪チームほどケガする選手が多いのも事実であり、どのようなトレーニングが適切なのか悩む人も多いのではないでしょうか。
ここでは成長期のトレーニングについて詳しく解説していきます。
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成長期の筋トレ(レジスタンストレーニング)は身長が伸びない?
結論から言えば、筋トレをしても身長は伸びます。
レジスタンストレーニングは、成長を阻害することはなく思春期前の男女の骨密度の増加が報告され、骨の健康増進するといえます。
また、骨や筋肉の発達、成長に必要な成長ホルモンは、レジスタンストレーニングによって分泌が促進されます。
これらの理由から、レジスタンストレーニングによって身長が伸びないことはなく、反対に骨の健康を向上させ成長ホルモンを分泌させることで身長が伸びやすくなる可能性があります。
成長期に筋肉はつかない
「筋肉がつくから背が伸びない」という観点からも科学的には否定できます。
筋力トレーニングプログラムを8〜12週間行うことにより、子供は筋力を30%〜50%向上させることができると複数の研究報告があります。
しかし、9~11歳(13名)を対象に週3回の筋力トレーニングを20週継続した結果、ベンチプレスは35%、レッグプレスは22%増量した負荷に適応できるようになりましたが、筋肉の断面積は大きくなっていませんでした。(参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2233199/)
このようなことから、神経系の変化している可能性が考えられています。
神経系の変化を簡単に説明すると、日常生活では10程度の筋繊維(筋肉)を使えば問題なかったものが、トレーニングによって20程度の筋繊維に神経系から指令が送れるようになり、それが結果として筋力UPにつながります。
このような研究からこどもの間に筋肉がつきすぎることはありません。
ただ、言い換えれば筋肉を増量させる目的で筋トレを行っても、成人ほど効果がないということです。
筋力トレーニングのケガリスク
筋力トレーニングは、未成熟の骨(骨端軟骨)の損傷リスクになると考えられていました。
しかし、適切な指導であれば安全に実施できると最近の研究では結論付けられています。
ここで重要なのは、適切な指導ができるということです。
適切な筋力トレーニング指導とは?
適切なフォーム指導は当然ですが、他にもプログラム変数の正しい処方(反復回数、セット数など)、漸新性(適切に負荷を上げていく)などのプログラム作成が重要です。
さらには適切な栄養および睡眠、フィットネスの調整、年齢に応じてパフォーマンスを向上させる個別性なども含まれます。
そのため、筋力トレーニング指導のガイドラインには、筋力トレーニングの専門家(S&Cコーチ)に指導してもらうことが望ましいとされています。
成長期に筋トレは取り入れるべきか?
科学的には、適切なトレーニング指導ができれば筋力トレーニングは有効と言える可能性があります。
しかし、残念ながら適切に指導できる人が圧倒的に少ないことが現状ではないでしょうか。
小学生のチーム指導は、過去に競技歴はあるかもしれませんが、はっきり言えばトレーニング指導の素人です。
例え、プロ選手であっても競技の技術指導は一流でもトレーニング指導は素人レベルと考えたほうが無難でしょう。
このようなことから、トレーニング指導者がいなければ、無理に筋力トレーニングをこどもに行うことはリスクでしかありません。
練習以外の補強トレーニングをしたい場合は、筋力トレーニングではなく違う競技をすれば良いです。
なかには競技練習にトレーニングを組み込んでいますが、正しいフォームで教えられないなら素振りやフットワークをさせたほうがマシですね。
こどもを強くしてあげたい情熱は尊敬に値しますが、無茶苦茶なフォームやトレーニング強度でやっても研究で報告されている効果は望めません。
成長期のトレーニングは何が良い?
12歳ぐらいまでは、ゴールデンエイジと呼ばれ運動神経が最も発達する時期と言われています。
ただ、このゴールデンエイジ理論は疑問点も多く、人の成長には個人差があり、不必要に技術を詰め込み過ぎても上手くいかないケースもあります。
ゴールデンエイジについて詳しくはこちら
成長期においては、色々な体験(スポーツ)をさせてあげることが大事です。
最近ではスポーツの低年齢化も進み、幼少期から同じスポーツしかしたことがなく、他のスポーツが上手くできないこともみられます。
それはプロ選手でも言えることで、プロになってウエイトトレーニングをしようとしても適切なフォームが習得できないそうです。
それが、結果としてフィジカルが弱くさらには走れないため、今までは才能だけで通じていたものが世界では通じづ終わってしまいます。
貴重な時間を不確かな筋トレには使わない
個人的な意見として、自分のこどもに筋トレをさせるかと聞かれれば、高校になるまでは自主練の一環として行うことはしません。
なぜなら、筋力増量が主目的になる筋トレは、筋力増量が認められないこどもに行っても時間の無駄と考えられるからです。
身体操作の一環として、筋トレを行うことは良いかもしれませんが、こどもの時期に行うべきことは他にもあると考えています。
例えば、遊びも含めて色々な体の動かし方を覚えることは、多様な運動学習となります。
色々な体の使い方を覚えることで将来身につけたいテクニックも、感覚的に体の使い方がわかり習得が早くなる可能性があります。
こどもであっても時間は有限であり、目的に一致しない筋トレを取り入れるなら、遊びでもよいので違うスポーツを楽しませたほうが有効と考えらえます。
色々なスポーツを行うメリット
運動神経が良い、悪いと言いますが、実際は感覚の良し悪しです。
運動は、視覚、聴覚、関節の位置覚、バランス感覚など様々な感覚を受け取って最終的に出される指令を表現しています。
色々なスポーツをすることで、様々な感覚を習得しておくことは選手としてマイナスにはなりません。
アメリカでは、アメリカンフットボールとバスケットボールを学生時代は掛け持ちする選手は多く、海外でもジュニア期は様々なスポーツを経験している選手が多いです。
幼少期から1つの競技に絞るよりも、複数の競技をこなした方が、将来ケガのリスクが少ないと報告する研究もあります。
また、色々なスポーツで自分の動きの引き出しを増やしておくことは、新たな技術習得や最新のトレーニングを導入するうえでも大事になるはずです。
持久力トレーニング
パワーズ運動生理学では、以下のように書かれています。
ランニングや水泳など持久系競技に参加しているこどもたちは、成人に匹敵するほど有酸素パワーを向上させ、心肺系に対する悪影響は認められない
持久力のトレーニングは、低負荷を長時間行う方法や(ウォーキング、LSD【ゆっくり長時間走る】など)高負荷と休息を繰り返すHIITなどがあります。
HIITは負荷が強すぎると思われる方もいますが、成人同様にこどもは心肺機能を改善させることができるよいう研究報告があります
引用元:パワーズ運動生理学
心肺機能に負荷をかける持久力トレーニングは、現在のところ身体に悪影響を及ぼす事例はありません。
低負荷でも心肺機能の向上が認められる持久力トレーニングは、専門知識がなくともケガのリスクを抑え身体能力を向上させる可能性があります。
一見、きついトレーニングを沢山行うほうが心肺機能が向上すると思われがちです。
しかし、Polarizedトレーニングと呼ばれる方法は、低強度の持久トレーニングを多くし、高強度を少し行うことで持久力が高められるとされています。
詳しくはS&Cコーチである高森氏のブログをご参照ください。
HIITは、流行っていますが適切にプログラムすることも難しいため、下手なやり方では辛いだけで効果が上がらないように思います。
そもそも、高負荷のトレーニングは競技練習に組み込まれていることも多いため、こどもであれば練習日以外に負荷を変える必要もないと考えられます。
成長期のトレーニングの取り入れ方(まとめ)
適切な指導者がいれば、成長期からでも筋力トレーニングを開始してもケガもなくパフォーマンスを向上させることができます。
しかし、一般的に指導できる人は少なく知識がないなかで筋力トレーニングを指導しても効果があるとは言えません。
体幹トレーニングも同じで、フォームの崩れは効果がなく、さらには一般的な体幹トレーニングは有効性に疑問を感じます。
体幹トレーニングについて詳しくはこちら
そのため、成長期にあえてトレーニングするのであれば、持久力系トレーニングによる心肺機能向上させることを目的としたほうが良いでしょう。
個人的には心肺機能を高めるスポーツは、水泳がお勧めです。
ランニングは、持久力のトレーニングとはいえ下肢への負担も大きくケガのリスクもあるため、某プロ野球球団も走り込みをなくしてローイングを導入していました。
こどもの間は、1つのスポーツではなく複数のスポーツを経験させて、多様な動きに対応できる能力を身につけておこくとが大切です。
そうすることで、将来行うべきトレーニングにも適応しやすく、さらには新たな技術習得、スランプからの脱却などにも役立つと考えられます。
参考文献
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8201908/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18461111/
投稿者プロフィール
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伊勢市小俣町でカイロプラクターをしています。
病院では異常が見当たらず、どこに行っても良くならなかった方が体調を回復できるようサポートします。
機能神経学をベースに中枢神経の可塑性を利用したアプローチで発達障害、自律神経症状、不定愁訴にも対応しています。
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