むち打ち症とは

むち打ち症

交通事故の後遺症/むち打ち症とは?

むち打ち症は、交通事故の後遺症として多くみられますが、症状は人それぞれです。

また、早く症状が治まる人もいれば、長年頭痛や頸部の不快感が続いてしまうケースも少なくありません。

むち打ち症は、交通事故によって生じた首の痛みの総称であるため、病態はいくつかに分類されます。

また、ダメージを受けている部分も筋肉であったり、関節包であったり事故の程度や衝撃などによって異なります。

このようなことから、同じむち打ち症であっても症状が改善される期間や現れる症状などに違いがみられます。

ここからは、むち打ち症について詳しく解説していきます。

むち打ち症とは?

むち打ち症は、総称であって病名ではありません。

日本整形外科学会のホームページでは以下のとおりのことが書かれています。

むち打ち症は追突や衝突などの交通事故によってヘッドレストが整備されていない時代に首がむちのようにしなったために起こった頚部外傷の局所症状の総称です。近年ヘッドレストが標準装備されたことで “むち打ち症”と呼ばれることは劇的に減少したにも関わらず、医学的傷病名と混同して使用されることがあります。受傷原因や外傷程度により症状はさまざまで、治療方法や期間は多岐にわたります。

引用元:日本整形外科学会/むち打ち症

むち打ち症分類で多く利用されているケベックタスクフォースの定義は以下のとおりです。

「主に自動車事故において後方もしくは横から追突されることによって生じる骨または軟部組織の障害であり、急激な加減速メカニズムによって頸部に負荷が加わることによって生じる」

これらのことから、むち打ち症は交通事故によって生じた頸部の障害のことを指し、主にこのあと後述する疾患に分類されます。

土屋分類

むち打ち症は、1968年に横浜市立大学整形外科教室の土屋弘吉氏らが発表した「土屋分類」があり、以下のとおりに分類されます。

  • 頚椎捻挫型
  • 根症状型
  • バレー・リュー症状型
  • 根症状+バレー・リュー症状型
  • 脊髄症状型
頸部捻挫

頸椎捻挫型は、その名のとおり頸椎捻挫です。

また、頸部挫傷(皮膚はキズがつかずその下の軟部組織が傷つくこと)も含め外傷性頸部症候群と診断されることがあります。

病態としては、靭帯、関節包、筋肉などの組織にダメージを受け、神経症状が現れていない状態です。

根症状型

頸椎椎間板ヘルニア、頚椎症神経根障害など神経症状が現れている状態です。

神経症状は、頸神経由来の範囲(主に腕から手)にしびれや感覚鈍麻、過敏などの知覚障害、筋力低下がみられる運動障害です。

バレー・リュー症候群

頸部を通過する交感神経が障害されることで、頭痛、頸部痛、めまい、耳鳴りなどの症状が現れます。

また、頸椎(頸部の骨)を通過する椎骨動脈の血流が障害されていることもあります。

脊髄症状型

脊髄損傷であり、酷ければ頸部より下の運動および知覚麻痺が生じます。

なかには運動、知覚障害(不完全麻痺)のケースもあります。

ただ、慢性むち打ち症患者20人を調査した研究では、画像で明確に脊髄損傷がみられるケースはわずかという報告があります。

土屋分類以外にも脳脊髄液減少症、胸郭出口症候群、骨折などがむち打ち症とよく似た症状が現れます。

WAD(Whiplash Associated Disorders. むち打ち関連障害)

ケベックタスクフォース/The Quebec Task Force on Whiplash Associated Disorders(QTF)は、カナダのケベック州のむち打ち症3014例の分析に加え、関連論文の論評を行いWAD(Whiplash Associated Disorders. むち打ち関連障害)と呼ばれる症状の程度に応じた臨床分類があります。

Grade 臨床所見
頚部の愁訴なし、理学的所見なし
頚部の疼痛、強直、または圧痛の愁訴のみ、理学的所見なし
頚部の愁訴と骨・筋肉(筋骨格)徴候の存在(関節可動域の低下や圧痛点等)
頚部の愁訴と神経学的所見の存在(深部腱反射の低下、筋力低下、知覚障害等)
頚部の愁訴と骨折または脱臼

※難聴、めまい、耳鳴、頭痛、記憶喪失、嚥下障害、顎関節痛はいずれのグレードでもみられます。

また6ヶ月以上症状を示している場合は、慢性化と定義しています。

症状

  • 頸部痛
  • 頭痛
  • 手の痺れ
  • めまい
  • 吐き気
  • 耳鳴り

交通事故では、頭頚部の急激な過伸展(上を向く動き)および過屈曲(下を向く動き)により、頸部の椎間関節を包む関節包(滑膜)が損傷することが多いです。

また、受傷後から数時間後に炎症が生じて首の可動域制限や痛みを訴えることもあります。

交通事故直後よりも数時間後に痛みが強まるのは、この滑膜の炎症が起因しています。

頭痛にはいくつか種類があり、むち打ち症に起因する場合は頸性頭痛と考えられます。

頸性頭痛の原因は主に上部頸椎の神経絞扼であり、交通事故によって頸部の過伸展が影響を与えている可能性があります。

また、神経の影響は頭痛だけではなくしびれ、めまい、吐き気、耳鳴りなど自律神経症状も現れます。

むち打ち症の診断

WADの分類をもとに身体評価されることが多く、患者の評価は詳細な病歴聴取と理学検査により十分可能とされています。

そのため、 グレードⅠでは画像検査や特別な検査は必要なく、グレードⅡとⅢでは頚椎のレントゲン撮影が必要というWADの調査報告があります。

また、むち打ち症受傷後ではなく数時間後(なかには数日から数週間後)に症状を訴えるケースもあり、骨折が疑われる所見がなければ、レントゲンでは痛みの原因が特定できません。

MRIやCTにおいてもしびれ、椎間板、脊髄損傷などの所見がみられるケースに使用されます。

むち打ち症の一般的な西洋学的治療(病院および整骨院)

症状によって治療法が異なりますが、一般的に行われている病院での治療は以下のとおりです。

安静( 頸椎カラー)

頸部を動かないように固定します。

ただ、頸椎固定による安静は早期回復を妨げるという研究報告があります。

薬物療法

痛みを緩和させるためのロキソニン(抗炎症鎮痛剤)

しびれ症状を緩和させるビタミン剤、リリカ、メチコバール(末梢神経障害治療剤)など 症状に合わせた薬が処方されます。

※整骨院では薬物療法は行えません。

物理療法

首を上方に牽引する療法 ・電気、温熱療法 超音波、干渉波などで血流を良くし、発痛物質の排除、筋肉の緊張を緩和させます。

マッサージ、ストレッチ

急性期が過ぎたらマッサージやストレッチにより頸部周辺の筋緊張を和らげます。

整骨院の治療になると独自性が現れ本来、健康保険が適用されない自由診療を取り入れるところもあるようです。

治療費

交通事故に遭った場合の治療、リハビリは自賠責保険が適応(人身事故は不適応)となり、基本的には自費で通院費、交通費を支払うことがありません。(自賠責保険を適応させるためには医師の診断書が必要となります)

ただ、無制限というワケではなくむち打ち症では120万円が上限とされています。(重度の障害では違う上限設定となります)

また、保険が適応されるのは病院及び整骨院となります。

経験的な話ですが、カイロプラクティック心に来られて保険が申請できたと聞いたのは数例です。

基本的にはカイロプラクティック、整体などの民間療法は保険が適用されないと考えて良いです。(民間療法を保険会社の支払いにしてくれるのは相当良心的です)

保険が適用される治療期間

基本的に治るまで治療は継続できますが、自賠責保険が適応されるのは一般的には3ヶ月、長くても6ヶ月程度で治療費が打ち切られることが多いです。

交渉次第ではさらに延期してもらえるケースもありますが、病院側から、これ以上治療を続けても症状が良くならない(症状固定)という理由で治療が打ち切られることもあります。

実際むち打ち症の長期的な研究調査では、さまざまな回復率を示しており、1年後の患者の25〜40%に持続的な症状があることが示唆されています。

他の研究では、損傷後7年以内の患者に39.6%の症状がみられる報告されています。

このように継続的に症状が残ってしまうケースもあり、社会的要因(家庭内、仕事、人間関係の問題)心理的要因(事故のショック、不安、恐怖など)の影響もあると考えられています。

むち打ち症が後遺症として痛みがなぜ継続するの?

その人の社会的背景や心理面によって痛みが長期化するケースもありますが、ここでは筋骨格系の問題から慢性化してしまう要因を解説していきます。

筋肉の問題

むち打ち症では筋損傷もみられますが、慢性化したむち打ち症では筋損傷がみられなかったという研究報告があります。

筋肉損傷を修復する過程では組織が線維化してしまうことがあり、筋肉の弾性が損なわれ、筋肉は固くなってしまいます。

そうなると関節の可動域制限、痛みを感じる神経の影響などにより、痛みを感じやすくなることが考えられます。

線維化は安静でもみられる現象(寝たきりが悪影響を及ぼす要因の1つでもあります)であり、交通事故後に動かすのが怖い、痛みが強いなどの理由で極端に頸部の運動を制限することでみられる可能性があります。

そのため、複数の研究では日常に限りなく近い生活および運動により回復も早いという報告があります。

関節包の問題

頸椎(頸部の骨)で形成される椎間関節を包む関節包は、MRIでも損傷が特定しにくい部分ですが複数の研究で関節包の影響を示唆した報告があります。

関節包には痛みを感じる神経が豊富であり、これらの機能も障害されることで慢性的な痛みの原因になると考えられています。

血流の問題

500人のむち打ち症患者の研究報告では、頸部動脈解離の発生率が一般集団よりも有意に高いことを示しています。

また、むち打ち症患者の椎骨動脈における血流速度の変化は慢性症状と関連しているという研究報告もあります。

椎骨動脈は脳に血液を送る大切な血管であり、障害されることによりめまいや頭痛の原因にもなります。

神経系の問題

むち打ち症は、頸部および腰部の固有受容体(筋肉の長さや関節の位置などを脳に伝えるセンサーの役割をもつ神経)の過剰興奮があり、他方では視床下部、脳幹および小脳などの中枢神経系の機能不全があるとされています。

また、むち打ち症患者は、頸部交感神経神経の過剰興奮がみられます。

固有受容体の異常がみられれば、正しい関節位置や筋肉の長さを保てず、常に違和感がみられる可能性があります。

さらに興奮状態が継続すれば、少し伸ばされるような動作でも筋肉は収縮しようとするため、筋肉が過緊張したりダメージを受けやすくなったりします。

脳幹および小脳は呼吸や姿勢反射、運動のフィードバックおよび平衡感覚に影響します。

呼吸が浅くなれば疲れやすく様々な症状を誘発します。

姿勢反射や平衡感覚の乱れは立っているだけでもバランスをとることが難しく(無自覚であることが多いです)結果として過剰に身体を緊張させてしまいます。

さらに交感神経が優位になっている状態であれば、自律神経症状(動悸、発汗、だるいなど)もみられます。

このような神経系のエラーがみられれば、電気治療やマッサージなどでは変化はみられず慢性化しやすくなります。

参考文献

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6599233

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3489433/

むち打ち症と心理要因、社会的要因の関係

落ち込んだ気分がある人は、むち打ち症からの回復が32%遅くなるという研究報告があります。

他の心理的要因の研究では、初期の傷害後の不安、無力感、鬱病、運動への恐怖、壊滅的な恐怖などより遅い回復を報告しています。

また、ある研究では交通事故後にうつ症を発症した報告もあり、むち打ち症は肉体だけではなくメンタル面のケアも必要なケースも多くみられます。

社会的要因では、補償や法的要因がむち打ち症の予後に関与するという研究方向がありますが、その他の社会的要因は調査されていません。

これらのようにむち打ち症の症状には、肉体的な問題だけではなく心理面の問題も関わるため、回復が困難であるケースがあります。

参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18204405

仮に肉体的な問題が大部分を占めたとしても適切な治療が行われず長期化してしまった場合、改善が難しくなってきます。

1つの仮説として「想起バイアス仮説」というものがあり、症状の改善がなかなか見られないことに対してネガティブに身体が反応してしまいます。

神経学的にも侵害可塑性というものがあり、慢性痛(3ヶ月以上つづく痛み)にみられる現象で、組織にダメージがなかったとしても脳の誤認識により痛みと感じてしまいます。

心理面と痛みについて解りやすく解説してある動画もありますのでご参考ください。

むち打ち症は適切な処置、メンタルケアが大切

むち打ち症は、早い段階から適切な処置を行い、慢性化させないことが大切です。

ただ、湿布や電気治療、けん引療法など受動的な治療だけでは回復しないケースも少なくありません。

むち打ち症は能動的治療(患者自身が運動、セルフエアを積極的に行う)マルチモーダル療法(手技療法、運動など)が早期改善に役立つことが研究でも示唆されています。

身体のことを考えるのであれば、保険会社からの治療費を受け取るだけではなく、自費でも積極的に良い療法を取り入れていくことも大切です。

しかし、事故に遭ったうえに治療費を自費で支払うのを躊躇してしまう気持ちも解ります。

そのため、保険診療をただ受けるだけではなく、痛みのない範囲で自分で体を動かしていくことが早期改善の一つになります。

心のない言葉をかける医師や保険会社もあるため、セカンドピニオンで信頼できる医師をみつけたり、信頼できる弁護士に相談して面倒な交渉を任せていくことも不要な心理負担を減らせます。

話をまとめると保険適応内でしっかりとむち打ち症を治すのであれば「信頼できる医師に診てもらう」「信頼できる専門家に事故処理を任せる」「自分でも積極的に治すケアを行う」ことがむち打ち症の早期改善には大切と考えられます。

仮にこれらを行っても良くならない場合は、自費にはなりますがカイロプラクティック心が全力でサポートさせていただきますので、ご相談ください。

むち打ち症改善のカイロプラクテック施術の記事はこちらをご参考ください

参考文献

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2684148/#CR7

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4753964/#b3-oaem-3-029

投稿者プロフィール

カイロプラクティック心
カイロプラクティック心カイロプラクター
伊勢市小俣町でカイロプラクターをしています。

病院では異常が見当たらず、どこに行っても良くならなかった方が体調を回復できるようサポートします。

機能神経学をベースに中枢神経の可塑性を利用したアプローチで発達障害、自律神経症状、不定愁訴にも対応しています。

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