線維筋痛症は、慢性的な痛みだけではなく倦怠感、睡眠障害、不安、うつなどがみられることが多いです。
また、発症原因は不明な点が多く、薬物治療の効果がみられないケースもあり、非薬学治療を組み合わせていくことが推奨されています。
その1つに運動があります。
運動にも色々とありますが、ここでは線維筋痛症に効果がみられた研究報告を中心に書いていきます。
運動の有効性
運動は、線維筋痛症に限らず色々な疾患に対して有効であることが多くの研究で報告されています。
例えば、定期的な運動は不安やうつ、睡眠障害の改善されることが示唆されています。
不安やうつ、睡眠障害は線維筋痛症の人でもみられる症状でもあります。
運動は症状を改善させるだけではなく、健康を維持向上させるためにも必要不可欠です。
線維筋痛症では、有酸素運動、筋力トレーニング、太極拳など色々な運動が研究されており、治療の1つになり得ると報告されています。
有酸素トレーニング
有酸素トレーニングは、酸素をエネルギーにして長時間継続できる運動です。
有酸素運動では、視床下部はエンドルフィンを含む神経伝達物質のレベルを上昇させます。
そして、エンドルフィン放出の増加は、痛みの感覚低下と気分状態および睡眠の質の改善をもたらすとされています。
また、体内の炎症と酸化ストレスの減少につながり、不安とストレス反応の減少をもたらすと考えられています。
有酸素運動の有無を比較した研究
8つの研究(456人の対象者))では、健康関連の生活の質(HRQL)、痛みの強さ、こわばり、および身体機能のための有酸素運動トレーニングを支持する低から中程度の質のエビテンスが示されました。
有酸素運動の内容は研究によって違いますが、ウォーキング、水中ウォーキング、ダンス、エアロビクス、ランニングなどを週2~3回(1回30~60分)行い、8~24週継続し、徐々に運動強度を強くしていく方法がとられています。
有酸素運動を比較した研究
3つの研究(248人の対象者)では、2つの形態の有酸素運動を比較され、優位な差はみられませんでした。
比較された有酸素運動は以下のとおりです。
- ノルディックウォーキングと低強度のウォーキング
- 短い時間と長い時間の有酸素運動(ダンス)
- 週1回の有酸素運動とホームワーク(1回の指導を行う)
有酸素運動に対する考察
どのような有酸素運動が線維筋痛症に有効であり、どの程度の頻度および強度で行うかは不明であり、研究では監督下のもと平均して週2回35分程度の有酸素運動を15週間継続しているとされています。
個人的には継続することが重要ではないかと思い、一人ひとりのペースに合わせることが大事と考えられます。
例えば、時間として35分程度となっていますが初期は10分程度でも心地よく動いたと感じられる運動量で十分です。
継続できた後に自身の体力に合わせて運動時間を長時間に変えていくと良いでしょう。
線維筋痛症と有酸素運動の参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28636204/
レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)
レジスタンストレーニングは、筋肉に抵抗(レジスタンス)をかけて負荷を与え筋力の向上や筋肉量の増量などを目的に行う運動です。
わかりやすく言えば、スクワットや腕立て伏せなどもレジスタントトレーニングになります。
レジスタンストレーニングは、筋肉を壊し体の生理機能によって修復され結果として筋肉機能の向上および増量される過程によって、痛みの軽減に寄与する可能性が考えられています。
また、線維筋痛症の人は筋力および筋持久力の低下がみられることが多く、レジスタンストレーニングがそれらを解消し、結果として日常生活の質を向上させることも可能です。
長期的なレジスタンストレーニングは、ストレスに対する身体的な過剰反応を正常化することで、不安やうつ、睡眠障害を軽減することが研究報告されています。
このようなことから、線維筋痛症の人にみられる症状緩和にレジスタンストレーニングが有効と考えられています。
レジスタンストレーニングの有無に対する研究
レジスタンストレーニングを行った 54人の線維筋痛症の女性とレジスタンストレーニングをしなかった 53 人の線維筋痛症の女性の健康、症状、フィットネスを調べた研究があります。
方法は、運動器具、フリーウエイト、および自重を使用しトレーニング指導者の下、レジスタンストレーニングを週に2~3回、16 ~ 21 週間継続しました。
レジスタンストレーニングを行った女性は、筋力の向上だけではなく痛みの軽減、圧痛点の軽減、健康状態の向上がみられたと報告されています。
レジスタンストレーニングと有酸素運動との比較
線維筋痛症の女性30人が、8週間の期間、有酸素運動グループとレジスタンストレーニンググループに分かれて運動を行いました。
レジスタンストレーニングを行ったグループは、身体的な機能および精神的な要素が優位に改善され、有酸素運動グループは、痛みの改善および睡眠障害が優位に改善されたと報告されています。
この研究でのレジスタンストレーニングは中程度とされており、自重運動およびフリーウエイトで行われ4~5回、12回反復できるトレーニングを段階的に継続しました。
低強度のレジスタンストレーニングと柔軟体操(ストレッチ)を比較した研究
線維筋痛症の68人の女性が、低強度のレジスタンストレーニングまたはストレッチのグループに分かれて、週 2 回の 12週間の運動を行いました。
2週間の低強度レジスタンストレーニングは、多面的な機能、痛み、疲労、および睡眠において、線維筋痛症の女性の柔軟運動よりも大きな改善をもたらすと報告されています。
また、低強度レジスタンストレーニングほどではありませんが、ストレッチだけでも少しの改善がみられたそうです。
低強度のレジスタンストレーニングは、最大1.4㎏のハンドウエイトおよびゴムチューブを利用しています。
レジスタンストレーニングの考察
レジスタンストレーニングの中強度は、10~15レップ程度反復(最大挙上重量の60~80%)できる運動です。
一般的に中強度を週2~3回行えば、筋肉肥大(筋肉量の増加)がみられるとされています。
論文でも中強度から高強度のレジスタンストレーニングのほうが、質の高いエビテンス(科学的根拠)がみられると書かれています。
このようなトレーニングは、専門家の指導を受けたほうが安全に行えるため(研究でも全て指導者がついています)、ジムおよびパーソナルトレーニングを利用するほうが良いでしょう。
レジスタンストレーニングは、脳科学的な側面からも研究されており、認知機能の改善や副交感神経の機能回復、情緒面の脳領域(眼窩前頭前野)の回復なども示唆されています。
また、動作を意識的に行うことで前頭前野は活性化しやすく、ストレスコントロールに効果がみられることが考えられます。
このように中枢神経系にも好影響を与える可能性があるレジスタンストレーニングは、中枢性感作が引き起こされている線維筋痛症においても効果があるといえるのではないでしょうか。
線維筋痛症とレジスタンストレーニングの参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24362925/
太極拳
太極拳は中国武術の1派です。
武術だけではなく健康法としても注目されており、中国だけではなくアメリカや日本でも行っている人が多くみられます。
研究でも太極拳は、線維筋痛症の人の身体的および精神的症状の改善が報告されていきます。
ここでは有酸素運動と比較した研究を紹介します。
太極拳と有酸素運動を比較した研究
線維筋痛症の患者226人を対象に75人が有酸素運動グループ、151人が太極拳グループにランダムに振り分けられました。
また、151人の大極拳グループは、12また24週間の期間に週に1回または2回(合計4グループ)行うグループに振り分けられています。
有酸素運動は24週の期間で週2回実施します。
1回につきそれぞれ約60分間行い、実施する日以外にも30分程度は行うよう指導されています。
線維筋痛症の人は、平均52歳(92%が女性)平均 BMI は30kg/㎡でした。
そして、体の痛みを感じている期間は平均9年です。
24週間が終わっても各自で運動を続けるように指示し、52週間追跡調査を行いました。
研究結果は以下のとおりです。
線維筋痛症の影響アンケート(FIQR スコア)は、どのグループも改善がみられ、24週の期間継続した有酸素運動グループと太極拳を24週の期間継続したグループを比較すると太極拳グループのほうが有意に改善されました。
また、52週に時点でも太極拳グループを組み合わせたグループは、有酸素運動グループよりも、患者の全体的な評価、HADS 不安、自己効力感、および対処戦略において統計的に有意でした。
太極拳の考察
太極拳は、有酸素能力、筋力、柔軟性、バランス、姿勢制御の改善に大きな効果があることが多くの研究で確認されています。
バランスという面では小脳や前庭系が関わり、この脳領域は感情面との関りが示唆されるようになりました。
このことから、バランスが改善していく過程で小脳、前庭系が活性化され、うつや不安といった精神的な症状も緩和されていく可能性があります。
姿勢制御の改善がみられるということは、運動制御もおそらく好影響を受けていると考えられます。
姿勢や運動は、中枢系がその時の状況や環境において適切に指令を出して調整している側面があります。
詳細は割愛しますが、様々な領域が活性化する必要があり、結果として自律神経系や情緒面などもコントロールできるようになるのではないでしょうか。
太極拳も個人ではなく専門家に指導してもらうことが大事です。
ヨガ
ヨガの呼吸法は、不安、認知を改善し副交感神経の活性化させることが示唆されています。
参考文献
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15454358/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27213148/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26667292/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24995360/
このようなヨガの利点から線維筋痛症の精神症状や痛みのストレスを軽減させる可能性が示唆され、ヨガと線維筋痛症の研究が複数あります。
線維筋痛症とヨガプログラム
6週間のヨガプログラムに参加した女性15人は、痛みやストレスを含む線維筋痛症の症状の軽減だけでなく、気分、睡眠、自信にプラスの影響を与えたと報告されています。
参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31543629/
対面のヨガセッションは、アーサナ (ポーズ)プラナヤマ (呼吸法)、ヨガニドラ (深いリラクゼーション)、および身体、心、および感情を再接続するプロセスを促進するための瞑想法が行われています。
また、自宅で30分できるヨガビデオで実践されました。
ヨガの考察
一般的にヨガは、体の柔らかい動き(ポーズ)に注目されがちです。
しかし、ポーズは瞑想を行う姿勢でもあり、呼吸法を伴って行うことが重要です。
ヨガの呼吸法および瞑想は、脳機能の分野でも研究されています。
ヨガの呼吸法のなかで片側の鼻をおさえ、もう一方の鼻で浅く早い呼吸を行うと反対側の大脳半球の認知的覚醒が高まるという報告があります。
瞑想は呼吸に集中する方法もあり、トラウマを受けたこどもたちに1日30分の瞑想(マインドフルネス)を6週間行った研究では、心身に顕著な改善がみられました。
このようなことから、ヨガを行うにしても呼吸に重点を置き習得していく必要があるでしょう。
運動は心身を改善できる
運動が健康を維持するうえで重要なことは、誰もが感じていることではないでしょうか。
運動は筋肉をつけ体を柔軟にするだけではなく、神経機能にも好影響を与えることはあまり知られていません。
そのため、線維筋痛症のような中枢神経系が起因するような疾患や精神疾患に運動が効果的と思う人は少ないです。
しかし、多くの研究で運動は好影響を与えることを報告しています。
線維筋痛症の人で動くことが苦痛であれば、まずは深呼吸(息を長く吐くことを意識)からでも行ってください。
そして、できれば5分からでもよいので呼吸に意識を向けていきましょう。
体が動かせる時間ができれば、少しずつ体を動かしていくことで心身の改善がみられるのではないでしょうか。
カイロプラクテイック心では、体の機能向上を目的としたパーソナルトレーニングも行いますので、体を動かしたい人は一度ご相談ください。
カイロプラクティック心の線維筋痛症へのアプローチ方法
投稿者プロフィール
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伊勢市小俣町でカイロプラクターをしています。
病院では異常が見当たらず、どこに行っても良くならなかった方が体調を回復できるようサポートします。
機能神経学をベースに中枢神経の可塑性を利用したアプローチで発達障害、自律神経症状、不定愁訴にも対応しています。
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