発達障害は、食事療法(グルテンフリー、ガゼインフリー、ビタミンとタンパク質を多めに摂取など)で治るという書籍や医師の発言がみられます。
そこで情報収集してみると「食事で治る派」「食事で治らない派」の意見が混在しており、何を信じてよいのか混乱している親御さんも多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では2つの発達障害に対する食事療法の研究報告をもとに考察した内容をお伝えしていきます。
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グルテンフリー・カゼインフリーの効果は?
6つのRCT(214人の参加者)をまとめた結果は、グルテンフリーおよびガゼインフリーが自閉症スペクトラム障害に有効とされる根拠は示されませんでした。
※RCTはランダム化比較試験という根拠のある質の高い研究手法であり、それらをまとめた報告は科学的根拠のレベルは高いです。
研究内容としては、自閉症スペクトラム障害の中核症状(社会的コミュニケーション障害、限定された反復行動)に統計的な有意な差がみられなかったとしています。
しかし、「コミュニケーション」「社会的相互作用」「自閉の特性」「社会的接触」のスコアに有意的な差がみられる研究報告が含まれていました。
このことから、中核症状は改善されていませんが、いくつかの症状は軽減されています。
参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28612113/?i=6&from=/31121871/related
包括的な栄養および食事介入
この研究は、3〜58歳の自閉症スペクトラム障害(ASD)の67人を対象に食事介入グループと非食事介入グループに分けて症状の比較を行いました。
食事介入グループは特別なビタミン/ミネラルサプリメントで始まり、必須脂肪酸、エプソム塩浴、カルニチン、消化酵素、グルテンフリー、カゼインフリー、大豆フリー(HGCSF)を順次追加し12か月間行っています。
結果は、食事介入群の非言語的知的能力に有意な改善があり、偏食、排尿コントロール、疲れやすい症状が改善されたケースもみられました。
ASDを持つほとんどの人の栄養状態、非言語的IQ、自閉症症状、およびその他の症状の改善に包括的な栄養および食事介入が有効であることを示唆していると結論づけています。
参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29562612
食事療法の研究報告を考察
エビテンスレベルの高い報告を参考にすると、グルテンフリー、ガゼインフリーで自閉症スペクトラム障害の中核症状が改善されることはないと言えます。
ただ、注目したいところは、中核症状に有効性は示されていかせんが、有意に改善された症状があります。
そのため、食事療法がまったく効果がないとは言えないのではないでしょうか。
ここで大事になるのは、「発達障害が治る」という定義です。
発達障害の中核症状まで改善してこそ発達障害が治ると定義した場合、食事療法は効果がないと現状の科学で答えています。
しかし、多様な症状のうち少しでも楽になれば良いと考えた場合は、研究報告でもいくつかの症状に改善傾向がみられるため、食事療法は効果があると言えます。
発達障害の症状を1つでも楽にしてあげたい想いがあれば、食事療法は価値のある治療法と考えられます。
ASDと腸内環境
ASDは症状の1つに胃腸障害がみられることが多く、研究により腸内環境に関連している可能性を示唆する報告が多数あります。
腸と脳の相互作用(腸脳相関)について詳しくはこちら
先に解説したように食品を限定せず、腸内環境を改善させる治療法を模索した研究があります。
なかには、腸内環境を改善させるプロバイオティクス治療に効果がみられた研究報告もあります。
ただ、腸内環境と発達障害は研究段階であり、腸内環境の異常がみられるリッキーガッド症候群も医学的には認められていません。
腸内環境を正常に戻す療法は確立されていないため、食事療法で全ての人を改善させることは難しいです。
しかし、腸内環境とASDの関係性は解ってきていることから、食事療法は1つの手段として研究されている分野であることは間違いありません。
参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6121241/
発達障害は多様な問題を抱える
発達障害は、ASD、ADHD、LDなど併発していることも少なくありません。
そのため、みられる身体症状(便秘、下痢、疲れやすい、過敏性など)および振る舞い(コミュニケーションがとれない、じっとしていられない、場にそぐわない行動をとるなど)も一人ひとり違います。
さらに、発達障害は先天的な脳機能異常とされていますが、原因も未解明な状態です。
このように多くの問題をかかえている発達障害を、1つの療法だけで解決できると考えるのは無理が生じます。
しかし、個人的に食事療法は他の治療と並行してでも行うほうが良いです。
理由として発達障害は栄養不足、代謝の不均衡、消化器の問題など問題をかかえていることが多くみられることが解っています。
また、脳の機能異常が原因といわれる発達障害においては、脳(神経系)に効果的な栄養素を摂取することも大切です。
そのため、発達障害の全ての問題は解決しませんが、栄養状況を変えていくことで発達の問題を解決する糸口にはなるのではないでしょうか。
栄養素と身体の関係
発達障害に関わらず、健康を維持するためには食事はとても大切です。
- ビタミンA⇒血液循環をたかめ身体の解毒作用を高める
- ビタミンB群⇒脳の神経細胞の成長および安定させるために必要(とくにB1・3・5・6・12)
- 葉酸⇒脳の血液循環に良い(行動や感情の症状を軽減させる)
- ビタミンD⇒ビタミンD欠乏は精神活動に影響する
- ビタミンC⇒神経伝達物質生成に影響する(ADHDのこどもの多くは欠乏していると言われている)
- ビタミンE⇒脳細胞の酸化を防ぐ(認知や気分を向上させる働きを示す研究もある)
- カルシウム⇒骨の成長に不可欠(行動、態度を落ち着かせる)
- マグネシウム⇒脳細胞の代謝を助ける、便秘の解消にも役立つ(ADHD、ASDのこどもに欠乏していることが多い)
- 亜鉛⇒脳の代謝を助け、脳にとって危険な鉛を排出することを助ける
- セレニウム⇒免疫システムの働きを助ける
- 銅⇒神経伝達物質の働きを補助
- マンガン⇒エネルギーの生成に関与
- モリブデン⇒結合組織を作る
- カリウム⇒脳の適切な活動に必要
- 脂肪酸⇒細胞壁の材料、ホルモン生成、ビタミンの吸収に欠かせない
栄養は、身体を活動させるためには重要です。
そして、発達障害に対してビタミン、ミネラルを摂取するように勧められるには、神経系の素材となるからです。
また、ここには書いていませんが、タンパク質、炭水化物もバランスよくとることが大切です。
なぜグルテンフリー、ガゼインフリーが注目されるのか?
グルテン(小麦粉から摂取)ガゼイン(牛乳から摂取)は、消化ができずに腸内で炎症を引き起こし、色々な症状(疲れやすい、便秘や下痢を繰り返す、アレルギー症状が現れる、集中できないなど)を引き起こす可能性が考えられています。
また、グルテンフリーやガゼインフリーだけでも有意な改善がみられた症例もあるため、本が出版され研究も現在進行形で行われています。
ただ、全ての人に効果がある治療法ではないため、現在も議論がされています。
腸は第2の脳
腸の研究が進み、脳と腸は相互作用があると複数の研究で報告され、「腸は第2の脳」と呼ばれるようになりました。
そして、腸内環境の問題によって、精神障害(発達障害、うつなど)との関与も指摘する報告もあります。
このような影響からも発達障害とグルテンおよびガゼインが結び付けられていると考えられます。
発達障害ではないケースでも栄養状態および腸内環境によっては、精神面にまで影響を及ぼすケースがあります。
腸と脳の相互作用に関する文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6047317/
発達障害と栄養
発達障害は、脳の機能異常を客観的な指標で検査できないため、医師が症状を観察して主観的に発達障害と診断されています。
この段階で、そもそも脳の機能異常で発達障害の症状が現れているのかは疑問です。
曖昧な判断基準である発達障害は、実は食事療法だけでも効果を示す病態である可能性は否定できません。
また、栄養は身体を作るうえでは大切なため、身体的な不調(下痢、便秘、疲れやすい、睡眠障害など)があれば、発達障害の中核症状が治らないとしても、食事療法は行ったほうが良いと考えられます。
ただ、発達障害をビジネス化し、「○○を食べれば絶対治る」「○○を食べなければ絶対治る」という宣伝には注意が必要です。
食事療法は観察から
食事が全ての原因ではありませんが、その食事によって症状を悪化させる引き金になっている可能性があります。
そのため、いきなりグルテンフリー、ガゼインフリーなどを食事制限を始めるのではなく、食事を記録するとともに行動を観察していきます。
食事は成分表示までしっかりと記録すると共に、発達障害をもつこどもの行動を詳細に記録していきます。(イライラが増えた、下痢がひどくなったなど)
このような記録を続け、〇〇を食べたときに症状が悪化したパターンがみつかれば、○○を食事から排除する必要があります。
排除しなければいけない食事は、グルテン(小麦)ガゼイン(乳製品)とは限らないため、しっかりと観察することが重要です。
食事療法のデメリット
しっかりとした食事療法は、難しい側面があります。
こどもの場合だと、もともと偏食傾向がみられることもあり、排除していくこと自体が難しくなることがあります。
また、身体の良いものを食べさせようとしても拒否されることもあり、調理に工夫が必要となります。
食事療法は続けることで効果の有無がハッキリするため、家族や周りの協力(学校、友人など)も必要不可欠です。
そして、しっかり行ったとしても期待した効果がみられるかは分かりません。
仮に食事療法が効果的であっても、途中の禁断症状(イライラが強まる、気分が落ち込むなど)で挫折してしまうケースもあります。
食事療法は、発達障害のいくつかの症状が軽減する可能性は大いにありますが、負担に感じる可能性があります。
長期間に及ぶ極端な食事の排除
極端に食事を排除してしまうと、食べられるものが無くなってしまいます。
それが長期間続くと腸内環境の多様性がなくなるため、さらに過敏症の症状が強まってしまう可能性があります。
無暗に情報に流された食事療法は、かえって悪化させることもあるため注意が必要です。
一方通行の療法
脳と腸の相互作用が研究で報告されていますが、食事療法だけでは腸への治療が中心です。
脳の影響によって、腸の働きに問題が生じている場合は、あまり効果がないと考えられます。
腸と脳の相互作用をもとにした考えであれば、脳の状態も評価しアプローチしていく必要があるのではないでしょうか。
カイロプラクティック心の食事療法の考え
医師や医療従事者の中には、「食事で発達障害は治らない」と断言される人がいます。
もちろん、食事で全ての症状が改善するとは思いませんし、根本的な解決にはならない可能性があります。
しかし、発達障害に限らず健康な体を作るうえで食事は大事な要素を占め、栄養のバランスを考えて食事することは重要です。
例え、発達障害の中核症状が改善されないとしても、便秘や下痢、疲れやすいなどの身体症状がみられるのであれば、食事療法には取り組む価値があるのではないでしょうか。
カイロプラクティック心では、食事内容、身体状況をお聞きし、必要であれば食事療法を取り入れていただいています。
ただ、一生排除するのではなく消化器官が正常に戻り、過敏症が現れないよう状況になれば、排除した食材を戻します。
そのため、期限を決めて食事療法をしっかりと行っていただきたいです。
もちろん、食事だけで解決しない問題もあるため、発達障害全般について解説したページもご参考ください。
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投稿者プロフィール
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伊勢市小俣町でカイロプラクターをしています。
病院では異常が見当たらず、どこに行っても良くならなかった方が体調を回復できるようサポートします。
機能神経学をベースに中枢神経の可塑性を利用したアプローチで発達障害、自律神経症状、不定愁訴にも対応しています。
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