湿布は打撲や捻挫などの急性外傷だけではなく、慢性的な肩こりや腰痛にも利用する人がいます。
また、病院で処方されるだけではなくドラッグストアでも湿布が販売されているため、身近な処方薬の一つです。
湿布には「冷湿布」「温湿布」だけではなく、色々なメーカーから多くの種類が製造されており、自分にはどれが合っているのか分からないと感じる人も多いです。
しかし、湿布は欧米ではほとんど使用されず、保険適用されていない国も多く薬として認められていません。
このように世界で認められていない湿布薬は、効果があるのでしょうか。
湿布の役割、効果、副作用など意外と知られておらず、「とりあえず湿布」という安易な考えはよくありません。
そこで、ここでは湿布について詳しく解説していきます。
湿布とは
湿布は、捻挫や打撲などの外傷、腰痛、肩こり、膝痛などの症状緩和に用いられ、病院やドラッグストアにも用途に合わせて数種類置いてあります。
多種類ある湿布ですが、大きくは「第一世代」と「第二世代」の2つに分けることができます。
第一世代
厚手のタイプに有効成分と水分を含ませた湿布であり、冷湿布、温湿布に2種類があります。
ほとんどがタップ剤と呼ばれる素材に有効成分と多くの水分が含まれ、蒸発することによる気化熱効果で皮膚温を下げる効果が見込まれます。
ただ、水分の蒸発と共に効果が薄れ、剥がれやすいところが欠点です。
冷湿布
冷湿布の主な成分は消炎作用(炎症を抑える作用)のあるサリチル酸メチルに加え、l-メントール、ハッカ油、カンフルなどの冷却成分が含まれています。
そのため、炎症による熱感のある部分に対して冷却感を与えてくれます。
温湿布
温湿布の主な成分は、消炎作用のあるサリチル酸メチルに加えてトウガラシエキス、ノニル酸ワニリルアミドなどを配合することで皮膚を刺激し温感を与えてくれます。
血行を改善させることが目的となります。
サチル酸メチルの鎮痛効果は少ないです。また、冷湿布、温湿布ともに水分の気化熱により皮膚温度は下がるため、痛みとは違う「冷感」「温感」を与えることによる感覚変化によって痛みが和らいだと感じることが考えられます。
第二世代
イブプロフェン(ブルフェン®、エスタックイブ)・ジクロフェナク(ボルタレン®)・インドメタシン(バンテリン®)・フェルビナク(フェイタス®)、ケトプロフェン(モーラステープ)など経口薬の非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs) と同じ成分を含んだ湿布です。
そのため、第一世代に比べ強力な鎮痛効果が期待できます。
ほとんどの素材がプラスター剤(テープ状など貼りやすい形になっている)であり、皮膚との密着性が高く動いても剥がれ落ちる心配がほとんどありません。ただ、剥がすときに皮膚を傷めたり、長期の使用によりかゆみやかぶれが生じることがあります。
鎮痛効果のメカニズム
炎症はブラギジニン、ATPなど発痛物質や発痛増強物質であるプロスタグランジンによって痛みを引き起こします。
湿布に塗布されている抗炎症剤は、プロスタグランジンを合成する酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することによって炎症を抑えることできるため、鎮痛効果があります。
このように湿布にも経口薬と同様の鎮痛効果が期待できますが、副作用も当然あるため多量に使用することは注意が必要です。
副作用の危険性
湿布の副作用は、意外と知られておらず多数枚を利用するケースがみられます。
薬剤には必ず副作用があることを認識したうえで、使用上の注意を読みどのような副作用が理解しておく必要があります。
妊婦、小児は使用を控える
妊婦、小児に対して安全性は確立されていません。
妊娠後期の女性に使用したことで、胎児動脈管収縮が起きたとの報告があります。
喘息発作
経口薬と同じように喘息発作の素因のある人は、湿布薬剤によって喘息発作を引き起こすことがあります。
また、喘息ほど重症ではなくとも湿疹を引き起こすこともあるため、注意が必要です。
光線過敏症
モーラステープに含まれるケトプロフェンの副作用で多いのは、光線過敏症です。
光線過敏症は、日光(紫外線)を浴びることで、発赤、かゆみ、かぶれなどの皮膚症状が現れます。
過敏な人は日光にさらされていなくても発赤がみられることがあります。
胃腸障害
消化管粘膜(胃腸)障害を引き起こすため、経口薬の場合は胃腸薬も同時に服薬することが多いです。
しかし、湿布においてはこのような副作用があることを考えず、大量に使用する傾向がみられます。
市販されている湿布には、使用上の注意がかかれているため、それらを理解したうえで使用しましょう
副作用における参考文献
参考文献:NSAIDs 経皮製剤(湿布)が原因と考えられた 胃潰瘍の 1 例
湿布も貼り過ぎは注意
第二世代の湿布は、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)の成分が含まれ皮膚から血中に浸透します。
非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)は、経口薬としても処方され胃腸障害の副作用を緩和するためにプロスタグラジン合成促進薬(ガストローム、ムコスタなど)処方されることは、一般的にも知られています。
しかし、第二世代の湿布でも貼り過ぎれば胃腸障害のような副作用が引き起こされることは知られていません。
モーラステープの成分であるケトプロフェンの経口薬の上限は150㎎であり、20mg製剤のモーラステープ約8枚分でこの上限と同じ血中濃度に達します。(他の湿布も同様に使用枚数が増えればモーラステープと同様です)
このようなことから、とくに高齢者は連日多用する傾向があり、湿布による胃潰瘍を発症した症例が報告されています。
参考文献:NSAIDs 経皮製剤(湿布)が原因と考えられた 胃潰瘍の 1 例
肩こりに湿布は効果がある?
湿布が効果を発揮するのは、炎症性の痛みです。
痛みを感じていない肩こりに炎症が起こっているとは言えず、湿布が効果的とは言えません。
痛みを感じている肩こりでは、多くの人は「重い」「鈍い」などと表現することが多いです。
しかし、炎症性の痛みは鋭いため、こり感と同じように湿布が効果的かは疑問です。仮に効果があるとすれば、五十肩、寝違え、運動後の筋肉痛など炎症性の痛みが疑われる場合です。
なかには湿布によって肩こりが軽減された経験のある人もいるかと思います。
ただ、湿布を貼ったことによる「安心感」という心理面に作用していることがあり、その人にとって安心感が得られるもの(磁気テープ、手で揉むなど)であれば、湿布でなくとも同じ効果が得られると考えられます。
肩こりの原因が炎症であっても湿布は勧められない
最近の組織損傷による対処法では、なるべく抗炎症薬を使用しないことが推奨されています。
その理由としては、炎症は痛みを発生させますが、組織を回復させる重要な過程とされ、炎症を抑えることで回復を遅らせることで症状が長引いてしまうからです。
詳しい記事はこちら
ただ、例外として強い痛みの場合、慢性痛への移行、侵害可塑性による痛みを引き起こさないために痛みのコントロールも大切であるため、抗炎症薬の服用で痛みを抑えたほうが良いケースもあります。
しかし、肩こりは痛みによって生活の質が著しく低下(腕が挙がらない、首が回らない、動くたびに痛みが伴うなど)する、激しい痛みを伴うなどはみられません。
肩こりに湿布を貼るメリットは心理面だけであり、デメリットのほうが多いです。
湿布や薬で肩こりは治りません
湿布を貼ることで、傷んだ身体が治る(傷口が塞がる)ことはありません。
また、回復が促進されるわけでもなく、組織が傷んでいれば、むしろ回復を遅らせてしまいます。もちろん、痛み止め薬(抗炎症薬)も同様です。
高齢で運動が不可能であれば、湿布でコリや痛みが和らぐのであれば、適切な枚数を使用することは問題ありません。
しかし、肩こりを感じているのは10~40代で元気に活動できる年代にも多いです。
しっかりと肩こりの原因に向き合い、原因に対して対処していくことが肩こりを解消させる近道です。
肩こりの原因は?
肩こりの原因は「生活習慣:運動不足、不規則な生活、姿勢の意識」「病気の影響」「筋肉のアンバランス」「神経機能の低下」「内臓機能の低下」「ストレス:心因性」など多様でしかも複数の原因によって引き起こされることが多いです。
このような原因は、湿布で解決することはありません。
他の病気(心疾患、五十肩、頚椎症、胸郭出口症候群など)が影響しているケースもあるため、心配な方は病院を受診、健康診断を受けてください。
詳しい肩こりの原因、カイロプラクティックの対処法はこちらをご参考ください。
肩こりは生活習慣の見直しも大切
臨床的に肩こりの人は、運動習慣がなかったり、姿勢を意識しすぎ(胸を張りすぎる、猫背を気にしすぎなど)が多くみられます。
そのため、運動習慣を取り入れたり、姿勢をアドバイスするだけでも肩こりが軽減、気にならないレベルになることも少なくありません。
実際、肩こりが酷くて運動習慣(ランニング、筋力トレーニングなど)を取り入れてから、肩こりを感じなくなったという声も聞かれます。
生活習慣を見直すことは一番お金がかかりません。
少なくとも運動習慣のない人は、少しの時間からでも良いので運動を始めていきましょう。