骨盤矯正は、ある整体院によって商標登録をされている名称であり、一般的にどこの整体院でも使われていますが、法律上は使用許可のいる言葉となります。
このようなことから「骨盤矯正」は造語であり、カイロプラクティックの教育機関では「骨盤矯正」という名称での講義はありません。
また、海外でのカイロプラクティックの位置づけは国家資格を保持している医療重視者であり、骨盤矯正と呼ばれる名称もなく、カイロプラクターは骨盤帯のアプローチとして「仙腸関節」「恥骨結合」へのアプローチ方法を習得します。
ここでは骨盤矯正と呼ばれる手法に対して、カイロプラクティックでの骨盤帯のアプローチ方法について解説していきます。
骨盤とは
骨盤は腸骨と仙骨で形成される仙腸関節および恥骨結合で構成されています。
また、性差がある関節でもあります。
恥骨結合
恥骨結合は 、2種類の軟骨と4つの靭帯で構成ています。
また、成人の男性では関節面の水平レベルはほとんど同じですが、女性においては10%前後で均一性みられなかったことが研究で報告されています。
恥骨結合を構成する組織は以下のとおりです。
- 線維軟骨ディスク(恥骨の結合部の組織)
- 硝子軟骨(骨端の組織)
- 上恥骨靭帯
- 下恥骨靭帯
- 前恥骨靭帯
- 後恥骨靭帯
これらの靱帯および軟骨組織によって、恥骨結合は強固な関節を形成しています。
とくに線維性軟骨と靱帯によって関節の位置を強固に固定することができます。
硝子軟骨の表面は若い人では不規則とされ、 30歳前後で滑らかで真っ直ぐになり 、その後 60 歳前後から退行性変化 (関節狭窄、軟骨下硬化症および不規則性) が始まことが研究で報告されています。
恥骨結合のバイオメカニクス
恥骨結合は、生活の中で色々な負荷がかかります。
例えば、座っているときは下方から圧迫され、立っているときでも重力により上半身で圧迫され、下肢の筋肉によって引っ張られています。
さらに歩行やランニングなどで片足立ちになると圧迫だけではなく、せん断力(関節面にすべりやズレる方向に力が加わる)が加わります。
基本的には強固な構造であるため動きませんが、体の動きによって0.6~1.3㎜くらいの動き(前後、横方向、上下)がみられ、出産した女性ではこれらの可動範囲よりもわずかに動きやすいことが観察されています。
これらの動きにより、骨盤に受ける衝撃を吸収する作用があると考えられています。
妊娠中の変化
ほぼ出産経験のある女性111人を対象にした初期のレントゲン検査で、恥骨結合部の平均幅が 7.7㎜であると記録されこれは妊娠未経験の女性67人と比較した場合、平均3 ㎜ の増加を示しています。
211人の女性(うち56%が初産婦)を対象としたある研究では、恥骨の幅が妊娠8週で平均4mmから臨月に近い時期には7mmに増加しています。
ただ、これらの変化は出産前後の恥骨痛と一致しないことも報告されています。
恥骨に関連する参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20840351/
仙腸関節
仙腸関節は構造上、せん断荷重に対する抵抗力があり、他の関節に比べ安定しています。
そのため、上半身の荷重を骨盤部が支え、下肢からの力を上半身に伝えることができます。
しかし、多くの筋肉が仙腸関節に付着していますが、能動的な動きを生み出すことはありません。
先に解説したように骨盤の大きさに性差があり、仙腸関節の動きにも女性の方が可動性も高く、ストレス、負荷、骨盤靭帯の緊張が大きくなります。
仙腸関節の構造
参考:プロメテウス解剖学
仙腸関節は図のように多くの靱帯(白色)で覆われ、さらに関節面は線維性の強固な関節包で結合しています。
そのため、恥骨と同様に日常的に加わる負荷に対して安定性を保つことが可能です。
恥骨との違いは、仙腸関節には多くの筋肉が付着(骨盤底筋、腹横筋、腰方形筋、ハムストリング、大腿四頭筋、大殿筋など)しています。
しかし、これらの筋肉によって仙腸関節を動かすことはなく、他の関節(腰、股関節)の影響によって、間接的な動きが生み出されるだけです。
ただし、一部の筋肉(骨盤底筋、腹横筋、大殿筋など)は、仙腸関節を安定させる役割も担っています。
仙腸関節のバイオメカニクス
仙腸関節の主な機能は、脊椎から骨盤への力を吸収して伝達することです。
そして、不動関節とも呼ばれる仙腸関節は、最小限の動きしかないことが特徴的です。
仙腸関節の動きに関しては、いろいろな測定方法で研究されてきましたが、平面上で形成される仙腸関節は、関節面上の軸回転と滑り運動がみられ、それぞれ3°および2㎜を超える動きがみられまん。
※仙腸関節の詳細な動きは後述します。
男性と女性の 関節可動域の値も異なり、最大 は男性で1.2° 女性では 2.8° とされています。
さらに、関節の平均移動は約 0.7 ㎜ で2 ㎜ を超えることはほとんどありません。
また、片足で立っているときの動きは、両足で立っているときよりも大きくなります(体重の負荷が大きくなるため)
仙腸関節は、荷重による負荷によって僅かな靱帯の伸張によって動きがみられ、膝や股関節など他の関節のように筋肉の収縮によって大きく動くことはありません。
仙腸関節に関する参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32123652/
仙腸関節/仙骨の動き
骨盤全体は以下の図のような動きがみられます。
仙骨部の赤い矢印は腸骨に対して仙骨がお辞儀するように動く(前傾)ニューテーション、反対の青矢印の動きは(後傾)カウンターニューテーションと呼ばれます。
また、仙骨に対して腸骨が前傾、後傾するときも用いられ、腸骨の前方回旋、後方回旋と呼ばれることもあります。
そして、腸骨部の赤い矢印はインフレア、青い矢印はアウトフレアと呼ばれています。
この図にはない動きですが、IN(仙骨側の腸骨が近づき、前方が外側へ動く)EX((仙骨側の腸骨が離れ、前方が内側に動く)も論文に書かれています。
この動きは理学療法士、PRIなどでも骨盤の可動評価に利用される用語です。
これらの動きは単独で動くことはありません。
例えば、赤い矢印のようにニューテーションとインフレは複合的に起こり、さらにはEXも加わります。
骨盤が開くの意味
カイロプラクターとして、「骨盤が開く」状態を習うことはありません。
カイロプラクターが「骨盤が開く」を解説している場合は、個人的な解釈もしくは数日のセミナーで習得した名称を述べているだけの可能性があり鵜呑みにするのは止めましょう。
個人的な解釈としては、骨盤上部の青矢印、骨盤下部の赤矢印が開く方向に動いているため、これを骨盤が開くと説明している可能性はあります。
骨盤が動くから矯正が必要とする注意点
先に解説したように出産後、女性は骨盤部の可動範囲が増加しています。
可動域の増加は医学的に「可動域の亢進」とされ、解りやすく言えば捻挫したような状態です。
極端に言えばグラグラな状態であり、それをどのように安定させるかがポイントになります。
しかし、一般的な骨盤矯正はズレたもの戻すといった表現が多く、知識や技術なく可動域亢進した仙腸関節に矯正を加えた場合はさらにグラグラになってしまう可能性があります。
それが結果として何回も通わないと症状よくならず、最悪は症状が改善されません。
少なからず、出産経験のある女性は関節の可動域亢進している状態であることを認識しておく必要があり、それを理解しているセラピストに徒手療法を受けることが望ましいです。
カイロプラクティックの仙腸関節/仙骨の動きの評価
カイロプラクティックでは、関節異常をサブラクセーションと呼ぶことが特徴的で先に解説した動きも独自の表記を利用します。
また、ニューテーションの問題がみられたとしても腸骨の前方回旋の異常があるのか、仙骨の前傾に異常があるのかを見分けるために触診やカイロプラクティック独自のモーションパルペーションなどを用います。
さらには右側だけ仙骨が前傾しないという場合は、仙骨は斜めの軸運動が行われる考えもあり、上記よりも詳細な評価となります。
腸骨の関節異常
腸骨の関節異常は以下のように分類されます。
- PI
- AS
- EX
- IN
- PIEX
- PIIN
- ASEX
- ASIN
仙骨の関節異常は以下のように分類されます。
- P-S
- A-S
- P-R
- P-L
- RPI‐S
- LPI-S
- PAI-S
- LAI-S
これらの問題が左右にみられることもあり、組み合わせると数百種類の問題に分類されることになります。
骨盤の歪みと呼ばれる認識の違い
一般的な解釈として、関節の位置が数センチもしくは数ミリずれているものを元に戻していると勘違いされていることが多いです。
カイロプラクティックは、関節のズレを元に戻す療法ではありません。
カイロプラクティックアプローチは、筋肉が瞬間的にストレッチされることで筋緊張が緩み結果として関節が動きやすくなります。
また、持続的な圧、振動を加えるテクニック(アクティベーター、オシレーションなど)は、体にあるセンサーの役割を果たす器官が反応し、それが結果として関節の動きを改善します。
気をつけるべき骨盤矯正
骨盤矯正を行う上で特別な資格はいらず、誰でも明日から行うことができます。
これは国家資格者でも同じであり、国家資格の基準に骨盤矯正の技術は含まれておらず、数日のセミナーを受講して骨盤矯正メニューを提供しています。
また、産後のママ向けに協会を立ち上げていることもありますが、医学的に矛盾だらけであることも少なくありません。
リラクゼーションとしては問題ありませんが、症状改善や骨盤の開きが気になるなどの悩みに正確に応えることはできないでしょう。
少なからず、以下の文句で恐怖心を煽るところに通うことはお勧めしません。
- 数㎝単位で骨盤がズレている
- こんなに骨盤が開いているのは〇〇〇
- 今の骨盤の歪みでは将来的に不調に陥りやすくなる
- 数ヶ月かけて数十回通わないと骨盤の歪みが改善されない
骨盤の動きは1~2㎜しかなく、数㎝もズレているという発言は知識があるとは言えません。
また、「骨盤の開き」何をもって開くと言っているか不明であり、さらに比較対象となるべき出産前の状態を知らずに「こんなに開いて・・・」と言ってしまうのはマニュアル的なトークスクリプトがあるからです。
骨格は個人差があり、体格も違えば過去の生活、スポーツ歴、職歴などで体の状態は変わることが普通であり、所見だけでクライアントの恐怖を煽るような発言はセラピストとして失格としか言いようがありません。
骨盤矯正に数ヶ月も通わすケースもあるようですが、リラクゼーション的に育児中のリラックスする時間と割り切るのであれば良いです。
しかし、骨盤の歪みを改善したい、症状を改善したいという目的では無駄に長すぎます。
カイロプラクティック心の骨盤へのアプローチ方法
カイロプラクティック心は、第一種認定カイロプラクター(カイロプラクターとしての安全教育を数年受け厚生労働省に名簿を提出)です。
骨盤矯正を多く行う整骨院、整体院はありますが、ほとんどのケースで数日のセミナーの技術を提供していることは、第一種認定カイロプラクターをもつセラピストが三重県に数人しかいないことが物語っています。
また、片側の脚が短い、膝を曲げたときに脚の長さが変わるなど触診やモーションパルペーションなどを省いたテストだけで骨盤矯正を行われることも少なくありません。
これは手技療法が、未熟である証拠でもあります。
カイロプラクティック心は骨盤部の評価も触診、モーションパルペーション、関節可動域など複数のテストを踏まえて、骨盤部へのアプローチを行います。
このように手技療法の根幹である基礎からしっかり学び、施術歴15年以上のカイロプラクターが骨盤へのアプローチを行っています。
施術歴15年以上の経験から骨盤部へのアプローチも豊富であり、写真のようなディバーシファイドテクニックだけではなく、アクティベーターといった器具を用いて、骨盤部へのアプローチを行います。
可動域亢進した骨盤アプローチ
可動域亢進がみられる骨盤においては、圧着(圧迫をかけるテクニック)により関節の位置感覚の修正を行います。
また、その周辺の筋肉が機能しないと骨盤部が安定しないため、筋力テストを行い機能低下している筋肉の機能向上を目的として筋肉や関節に対するテクニックを使用します。
筋肉の問題がある場合は、圧痛があるケースが多く、テクニックとしては痛みのない位置を保持するため、ほとんど痛みを感じずに対処できます。
産後の骨盤が気になる方へ
一般的に産後の骨盤の歪みが不調の原因と聞くことも多いようですが、骨盤部の問題は産後に限ったことではありません。
また、出産前後の女性ホルモンの影響で靱帯が緩くなり、それが骨盤の歪みの原因とされることも多いですが、月経でも靱帯を緩くするホルモンは分泌されていることが研究でも示唆されています。
さらにその影響を考慮してウエイトトレーニングを調整すべきかの議論もありますが、現在は生理期間に関係なくウエイトトレーニングを行っても問題ないとされています。
これらのことから、産後だから特別に骨盤に問題が生じるとは言えません。
しかし、このような骨盤帯の事実を丁寧に教えてくれる人は少なく、「反対に産後の骨盤の歪みを直すべき」という声のほうが多く、それに不安を感じてしまう方も少なくありません。
また、カイロプラクティック心にも骨盤矯正について多くお問い合わせいただいております。
未熟なセラピストに数十万のお金をつぎ込んで結果として何も変わらないこともあり、そのような方を一人でも減らせたらと思い、カイロプラクティック心では産後1年間に限り、通常のベーシックコースよりも安い3,300円で骨盤部へのアプローチを行います。
症状もなく、骨盤部の評価に大きな問題が無ければ説明させていただき、アプローチが不要であれいば評価料は無料とさせていただきます。
仮に症状があり、骨盤部が大きな原因ではない場合は、ベーシックコースをお勧めさせていただきますが、無理にコース変更をさせることもありませんのでご安心ください。(この場合、骨盤アプローチ後に症状が変わらないことがあります)
骨盤部アプローチの特徴
骨盤部の問題解決に特化した施術です。
そのため、症状改善が目的ではなく、骨盤部の評価および骨盤部の問題解決が目的となります。
骨盤部のみの評価、アプローチとなるため、5~10分で施術が終了することで少し安価な価格で提供できます。
育児で忙しい、子連れでないと施術が受けられない方でも、骨盤の悩みが解決されやすいです。
ただ、症状改善が目的ではないため、症状を優先的に改善して欲しい方は、ベーシックコースをご利用ください。
※症状がある方はとくにベーシックコースをお勧めします。
理由は、産後であっても骨盤の問題が全ての症状の根幹ではなく、人によっては顎関節、帝王切開の手術痕ケア、足関節など症状の原因は他にもあるからです。
もちろん、骨盤アプローチで症状が軽減することもありますが、症状改善が第一目的ではないことをご了承ください。
施術時間
5~10分
初回に限り、病歴や身体状況をカウンセリングするため、20~30分のお時間をいただきます。
このときの骨盤以外の問題もお話させていただきます。
この時点でベーシックコースに変えた方は、変更も可能です。
産後の骨盤について良くある質問
産後の骨盤についてよくある質問をまとめました。
どれぐらい通えばよいですか?
A.個人差があり、人によって異なります。
症状改善であれば、6回くらいが目安となります。
しかし、骨盤部のアプローチは症状改善が目的ではなくため、個人の悩みによって異なります。
例えば、見た目が出産前と違う場合は、出産前に戻ることが目的になると3~6回(食事内容、生活習慣などに問題がない場合)で戻った声掛けいただくことが多いです。
※骨盤部のみのアプローチではなくベーシックコースでのお声がけであり、骨盤部へのアプローチをほとんどしていないケースも含みます。
人によっては悩みはなく友達から「骨盤矯正を受けたほうが良い」と言われてお問い合わせいただくこともあり、とりあえず1回受けていただくことも可能です。
カイロプラクティック心の基準としては、骨盤の評価前と施術後の違いを比較します。
そして、施術後の状態を維持できるようになれば、終了とさせていただくこともあります。
ただし、良い状態を維持しるためには日々の習慣の方が重要です。
産後に骨盤矯正したほうが良いですか?
A.骨盤の問題は産後に限ったことではありません。
正しい産後の骨盤矯正をしないと長期的な不調におちいると説明されることもあるようですが、そのような根拠は一切ありません。
また、一時の骨盤矯正よりも、その後の生活習慣(適切な運動、栄養の摂れた食事、適度な水分補給など)を適切に行うほうが健康的に過ごせます。
産後に行ったほうが良いケースは、「産後に症状がある」「産前に感じなかった違和感がある」など出産前にはなかった違和感があれば、骨盤部をアプローチすることで何らかの問題が解決することがあります。
ただ、骨盤の問題が全てではないことは理解したほうが良いです。
出産で開いた骨盤は元に戻りますか?
A.基本的に自然と元の状態に戻ります。
人の生理的な現象として、6~8週かけて元の状態に戻ります。
骨盤が開いた状態とは、曖昧な表現であり個人の感覚でしかありません。
実際、「骨盤が開く」表現は一貫性が無く、学術的にも理解されていないため、単純に骨盤が開いた骨盤がどのような状態を指すかわからないです。
ただし、骨盤底筋群の問題によって尿漏れが出産を機に現れることがあり、このケースにおいては骨盤底筋群、腹横筋などが付着する骨盤帯のアプローチが有効です。
また、骨盤底筋群のトレーニングは産後の尿漏れ症状を改善する有効な手段です。
カイロプラクティック心では、骨盤が開いている感覚をクライアントにヒアリングし、その感覚が消失するように施術いたします。