過敏性腸症候群

栄養

過敏性腸症候群

過敏性腸症候群は、胃腸症状がみられる疾患です。

また、胃腸症状だけではなく頭痛や腰痛など他の症状がみられたり、線維筋痛症、摂食障害などの疾患との関連性がみられたりします。

このようなことから、過敏性腸症候群と診断される前に他の症状の治療によって胃腸症状が悪化しているケースも多いようです。

臨床的に慢性的な腰痛、頭痛などがみられる方は下痢もしくは便秘が日常的であることもあり、栄養のサポートによって慢性症状が解決するケースも少なくありません。

過敏性腸症候群と診断されたけど栄養療法を受けていない、慢性症状と便秘や下痢などの消化器症状がある方などは、食事の見直しや脳機能を考えたアプローチが有効となる可能性があります。

ここでは過敏性腸症候群について原因、改善方法などを解説していきます。

過敏性腸症候群【IBS:Irritable Bowel Syndrome】とは

過敏性腸症候群【IBS:Irritable Bowel Syndrome】は、排便、排便回数の変化、および便の硬さの変化を伴い、少なくとも週1回の腹痛がみられることと定義されています。

また、器質的な問題(臓器や組織などに明らかな異常がみられる状態)のない機能性胃腸障害(腸脳相互作用障害)です。

症状によって「下痢の多いIBS-D」「便秘の多いIBS-C」「どちらもみられやすい混合型IBS-M」「分類不能」の4つに分類することができます。

機能性胃腸障害(腸脳相互作用障害)

腸脳相互作用障害は、以前から機能性胃腸障害(FGID)と呼ばれていましたが、器質性疾患がない状態で起こる慢性胃腸症状の総称です。

また、食道、胃、十二指腸、腸、胆道、中枢性、および肛門直腸を含む胃腸管内のどの領域でも発生する可能性のある腸脳相互作用障害は合計33あり、そのなかでもIBSは一般的です。

腸脳相互作用障害の病態は解明されていませんが、粘膜および免疫機能の変化、腸内細菌叢の変化、および中枢神経系処理の変化などの組み合わせに関連していると考えられています。

腸と脳の相互作用については多くの研究報告があり、中枢神経系が影響している障害や疾患(パーキンソン病、線維筋痛症など)でも腸の問題を解決するアプローチもみられます。

腸と脳の相互作用についてはこちらもご参考ください。

症状

一般的には、腹痛や腹部不快感、排便習慣の変化、便秘、下痢、またはその両方を伴います。

腹痛は排便に伴う、もしくは排便に伴い緩和されるパターンがあります。

また、排便の頻度や硬さに関連するとされています。

他の胃腸症状としては腹部の膨満感、吐き気、ガスなどがみられます。

原因

IBFは、腸の運動、腸の神経感覚、脳の機能低下(腸脳相互作用の問題)心理社会的苦痛など多岐に渡る原因が考えられています。

最近の研究では、腸の免疫活性の変化と腸および結腸の微生物叢がIBSに関連していることも示されています(参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22730468/)

IBFの原因は完全には解明されておらず、その理由の一つに胃腸症状以外にも線維筋痛症、慢性疲労症候群などと関連していることが示唆されているからです。

診断

IBDの診断には、ローマIV基準が使用されています。

その基準に沿って過去3ヶ月間に少なくとも週1回の頻度で腹痛がみられ、かつ以下の基準の2つ以上に該当する場合にIBSと診断されます。

  • 排便に関連した痛みがある。

  • 痛みが排便回数の変化(便秘または下痢)に連動している。

  • 痛みが便の硬さの変化に連動している

また、内視鏡(観察用の柔軟な管状の機器)検査、画像検査、生検、血液検査で分かるような構造的異常(器質的な問題)がみられるような疾患がないかも重要な判断材料となります。

鑑別診断

IBSの症状は器質的な問題(ガン、大腸炎など)でもみられるため、一般的な疾患との鑑別診断も重要となります。

一般的な鑑別が必要な疾患は以下のとおりです。

  • 胃腸感染症
  • 炎症性腸疾患
  • 薬剤誘発性下痢 (抗生物質の使用、プロトンポンプ阻害薬、非ステロイド性抗炎症薬、ACE 阻害薬、化学療法)
  • 悪性腫瘍
  • 甲状腺機能亢進症
  • パーキンソン病
  • 多発性硬化症
  • 糖尿病
  • 甲状腺機能低下症

当然ですが、これらの疾患が関与している場合は疾患の治療が優先もしくは並行して治療を行っていく必要があります。

病院の治療方法

IBSは症状に基づく疾患であるため、腹部膨満、けいれん、下痢または便秘などの症状の解消を目的に治療が行われます。

病院では服薬治療も行われ、下痢症状のIBSはロペラミドやリファキシミン、整腸剤が処方され、便秘には下剤が処方されます。

また、慢性的な状態では抗精神薬である低用量の三環系抗うつ薬(TCA)またはセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が処方されることがあります。

これらの薬物療法にくわえて食事療法(FODMAP、食事量や食べる食品の見直しなど)が行われます。

しかし、IBSに対して正しい知識で治療されないことも多いようであり、医師が IBS 治療に関心を示さないことが患者は大きなフラストレーションを感じているとされています。

また、この疾患が精神疾患であるという偏見もあり、さまざまな診断を受けるようなドクターショッピングを繰り返す患者も少なくありません。

そのため、研究論文では、最初の臨床面接で注意深く話を聞き、IBS の病態生理学、自然史、管理、予後について詳しく説明することで、患者の信頼を得ることが推奨されています。

IBSは胃腸障害だけではない

IBS患者の約50%はIBSのみとされていますが、残りの患者はなんらかの身体症状および精神症状を有しています。

IBSの一般的な胃腸症状以外の症状は、主に以下のとおりです。()内は有病率

  • 慢性的な腰痛(29~37.3%)
  • 慢性疲労症候群(14~54.2%)
  • 慢性頭痛 (34~72%)
  • 慢性骨盤痛(35~49.9%)
  • 月経困難症(10~50%)
  • 排尿困難 (36~50%)
  • 線維筋痛症(26~65%)
  • 月経前症候群(10~50%)
  • 性機能障害(24~83%)
  • 睡眠障害 (37.6%)
  • 顎関節症(9.16~64%)
  • 倦怠感 (36.3~63%)
  • 動悸(13~44%)
  • 頻尿(20.5~61%)
  • 尿意切迫感(60%)  

参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35967918/

腰痛や骨盤痛(臀部、股関節付近の痛み)を主訴としている方で、慢性的な便秘や下痢がみられるケースは臨床的にもみられます。

また、これらの方は診断受けていないだけではなく胃腸障害として病院を受診していないケースも少なくありません。

このように自身の症状と胃腸障害が関連していると考えていないケースは、一般的に多いのではないでしょうか?

これらの合併症状が多いほど、生活の質と心理的苦痛が悪化し、IBS 症状の治療が困難になると報告されています。

これらの症状はIBSに関わらず、栄養の問題が隠れていることもあります。

胃腸障害以外の症状がみられるケースの治療方法

胃腸症状に加えて腸管外症状に対する治療の効果を評価する研究は、ほとんどありません。

ただ、胃腸症状を改善する治療方法で腸管外症状も改善できると考えられていますが、証明されていないことが現状です。

しかし、ここでも重要とされているのは患者との信頼関係であり、IBSの生理学的および病態生理学的メカニズムについて患者に分かりやすい方法で説明することが治療の第1ステップとして重要とされています。

症状を包括的にとらえた質問票をもとに介入したモデルでは、教育、食事、リラクゼーション、認知行動戦略のトピックをカバーしたランダム化比較試験で胃腸症状とほぼ同程度の腰痛、頭痛、関節痛、疲労の軽減、睡眠障害の軽減をもたらしています(参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31499231/

ここで言えることは、胃腸障害だけのIBSよりも、より包括的にとらえた手法が重要と考えられます。

カイロプラクティック心のIBSもみられる慢性症状の付き合い方

カイロプラクティック心には、胃腸障害だけを主訴としてくることはありませんが、慢性的な症状および自律神経症状、慢性疲労症候群、線維筋痛症などのクライアントがIBSと診断、もしくは胃腸症状を併発されていることは少なくありません。

そのため、IBSと診断をすることはありませんが、胃腸障害も改善していくことが症状改善に繋がる可能性があることを説明し、可能な範囲で食事の見直しも進めていきます。

カイロプラクティック心は、栄養コンシェルジュ®2つ星の資格を保持し、脳機能の評価アプローチに関連するBBIT認定士、TNCトレーナーでもあるため、腸と脳の相互作用を考えたアプローチを行っていきます。

IBSの食事サポート

胃腸障害では、食事の見直しは必須と考えられます。

そのため、IBSでも食事療法は研究されており、FODAMAPの介入や食物不耐性(消化が困難な食材の排除)などの効果が報告されています。

FODAMAP

FODAMAPは(フォドマップ)は、小腸で吸収されにくく大腸で発酵しやすい糖質の総称です。

IBSでは低FODAMAP食(大腸で発酵されにくい食材)を導入することで特に腹痛と膨満感に好ましい影響を与える可能性があると研究報告されています(参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28846594/))

ただ、注意したいのは全ての食材を低FODAMAPに変更すると栄養の偏りが顕著となる可能性もあり、食事記録が重要となります。

腸内環境の改善

便秘や下痢を繰り返している場合は、腸内環境の悪化が考えられます。

そのため、腸内環境を改善させるための食事サポートが重要です。

腸内環境が悪化しているケースにおいて、高脂肪食(揚げ物、脂質の多い肉類など)や精製された糖質(スイーツ、お菓子など)を好んで食べている方が多く、それらを減らしていくことが第1ステップとなります。

そして、食物繊維を適量摂取する必要があり、下痢が多いケースでは不溶性食物繊維、便秘が多いケースでは水溶性食物繊維の摂取量が重要となります。

また、下痢の場合では消化不良も起きている可能性あり、よく噛むことや消化の良い食品および胃酸を分泌しやすい食品なども摂取していく必要があるかもしれません。

病院では善玉菌を腸内に取り入れる整腸剤が処方されることがあり、食事でも発酵食品(納豆、みそ汁、ヨーグルトなど)を積極的に摂取していくことで腸内の善玉菌を増殖させることができます。

腸内環境を改善させる順序として、まずは高脂肪の食材および精製された糖質の除去により、悪玉菌の増殖を抑え、その後にプロバイオティクス(発酵食品、サプリメントによる善玉菌の補充)、食物繊維(善玉菌のエサ)の摂取を行います。

食物不耐性

IBSでは、乳糖不耐性(乳製品)がみられることが報告されています。

乳糖不耐性は、消化酵素のラクターゼの欠乏により乳糖が消化できない状態のことで、下痢や腹部のけいれん痛を起こすとされています。

このようなことから、乳製品を摂取しないようにします。

しかし、食物不耐性は乳製品だけではなく小麦、大豆製品、豆類などでもみられることがあり、どの食材を排除していくかは個人によって異なります。

そのため、食事記録をつけて症状が誘発されやすい食材をみつけていく作業が大事になります。

食事記録の重要性

食物不耐性の食材、不調となりやすい食材は人によって違います。

そのため、食事記録と体調を照らし合わせて、自身の不調の原因となる食材を選別することが重要です。

例えば、Aという食材を食べた直後ではなく翌日、翌々日も含めて下痢や便秘だけではなく精神状態なども含めて不調を感じた場合は1度そのAという食材を排除します。

そして2~3週間後に再度、Aという食材を摂取(注意:必ず少量から始め過剰なアレルギー反応がみられないようにします)し、不調が生じればAという食材は体に合わないと判断します。

このように体に合わない食材を選別するためには、食事記録と体調を照らし合わせなければわかりません。

IBSに対するカイロプラクティック

慢性的な腰痛、頭痛など筋骨格系症状がある場合、対処療法ではありますが、カイロプラクティック施術によって症状が軽減し生活の質の向上が望めます。

生活の質が向上することでストレスが軽減し、結果として胃腸機能が向上する可能性があります。

また、カイロプラクティックには内臓マニュピレーション、内臓の活動に重要な副交感神経の活性化させるテクニックがあります。

内臓マニュピレーション

深部筋、内臓など腹部には多くの組織があり、それらが相互作用していると考えられています。

例えば、内臓付近の組織が固くなったような状態(組織を満たす液がドロドロになっている状態)になると内臓の蠕動運動が阻害され、結果として内臓機能が低下します。

このようなことから、腹部の緊張を緩めるような内臓マニュピレーションが有効となるケースがあります。

問題がある部位は軽く押すだけでも痛みがみられますが、内臓マニュピレーションは、痛みのないポイントで行うため、痛みのないソフトなテクニックです。

副交感神経の活性化

内臓マニュピレーションも副交感神経の活性化につながります。

他にも頭蓋療法、迷走神経アプローチなどソフトなテクニックで副交感神経を活性化させていきます。

これらの施術に加えて、副交感神経を活性化させるセルフケアを指導します。

副交感神経が適切に働くことで、体調の回復を早めることができます。

脳機能の向上アプローチ

IBSは腸脳相互作用障害であり、一部の脳機能低下が示唆されています。

また、自律神経も脳によってコントロールされており、脳機能低下によって交感神経が優位になっている可能性もあります。

単純には視覚、前庭系、体性感覚などの能力が低下していると日常的に緊張状態が強くなり、交感神経が過活動になりやすいです。

脳機能を向上させる方法としては、運動となります。

脳機能の問題に合わせて前庭系トレーニング、ビジョントレーニング、バランストレーニングなどを行っていきます。

また、有酸素運動は腸内環境を改善させるためにも有効と考えられており、可能な範囲でお勧めしています。

脳機能向上にエクササイズはこちらをご参考ください。

胃腸障害を改善していくことが大事

IBSと診断されていなくとも、慢性的な便秘や下痢を発症している方は多いです。

そして、そのような方が慢性症状を訴えて、カイロプラクティック心に相談いただくこともあります。

臨床的に食事の見直しに取り組んでいただいた方は、腰痛や頭痛が改善されることも少なくありません。

このような経験から、食事の見直しは重要と考えています。

それらに加えてカイロプラクティックや脳機能へのアプローチで、より早期に改善がみられます。

IBSでお悩みの方、胃腸障害と併せて慢性症状にお悩みの方は一度ご相談ください。

※胃腸障害について病院を受診していない方は、まず器質的な問題がないかを検査してもらってから対応させていただきます。

参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28846594/

投稿者プロフィール

カイロプラクティック心
カイロプラクティック心カイロプラクター
伊勢市小俣町でカイロプラクターをしています。

病院では異常が見当たらず、どこに行っても良くならなかった方が体調を回復できるようサポートします。

機能神経学をベースに中枢神経の可塑性を利用したアプローチで発達障害、自律神経症状、不定愁訴にも対応しています。

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