変形性股関節症は、中年以降(初診は50代が最も多く次いで60代)にみられる疾患です。
手術適応の疾患でもあり、人工関節と交換する手術が効果的とされています。
しかし、人工関節自体の耐用年数もあり、合併症(脱臼、深部感染、神経障害など)のリスクもあります。
そのため、40~50代で変形性股関節症がみられても保存療法(手術以外の治療)が優先されることも多いです。
また、股関節に変形がみられたとしても初期の段階であれば、変形自体が痛みの原因ではないこともあり(股関節インピージメント症候群、腰部周辺の関連痛など)手術以外でも痛みが解消される可能性があります。
ここでは、変形性股関節症の基礎知識、変形が必ずしも痛みの原因にはならないことを解説していきます。
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変形性股関節症の基礎知識
変形性股関節症は、初期段階で股関節を形成する大腿骨頭および臼蓋の関節軟骨に異常がみられ、加齢に伴い病変が進行する疾患です。 (図では凹側が臼蓋、凸側が大腿骨頭)
大別すると一次性変形性股関節症と二次性変形性股関節症に分かれます。
〇一次性変形性股関節症
明らかな原因がない(骨に解剖学的な異常がみあたらない)股関節に生じ、欧米ではこのタイプが多いです。
最近では、大腿骨寛骨臼インピージメント(FAI)が関係しているとも言われています。
〇二次性変形性股関節症
何らかの原因(先天的疾患、外傷、感染症など)によって、生じた変形性股関節症です。
一般的な診断方法
変形性股関節症は、レントゲン(X線)で関節裂隙の状態を四段階に分類します。
分類は以下の図のとおりです。
A:前股関節症⇒臼蓋形成不全、骨頭変形などの解剖学的異常はあるが関節裂隙の狭小化がないもの
B:初期股関節症⇒関節裂隙の狭小化がみられ、軟骨組織の硬化像がみられるもの
C:進行期股関節症⇒一部の関節裂隙の消失および骨硬化、骨棘形成、骨嚢胞の形成がみられるもの
D:末期股関節症⇒広範囲な関節裂隙の消失がみられ、著しい骨棘形成、骨嚢胞形成がみられるもの
引用元:整形外科リハビリステーション
他の診断方法として、臼蓋の形態評価を行い臼蓋形成不全を鑑別したり、脱臼の分類を評価したりします。
ただ、レントゲンでは軟部組織(靭帯、関節唇など)の病変が把握できないため、変形性以外の問題がないかMRIでの診断も行うことがあります。
また、最近ではMRIによって関節軟骨の状態も把握できるようになっています。
変形性股関節症は、世界的な診断基準がなく必ずしもレントゲンの所見と痛みが一致しません。
そのため、画像診断だけではなく鑑別診断および臨床的な所見(トレンデンブルグ徴候、跛行がみられるなど)と組み合わせて診断が行われます。
鑑別診断
変形性股関節症に限ったことではありませんが、股関節痛が生じる疾患は他にもあり鑑別する必要があります。
主な股関節痛を伴う疾患は以下のとおりです。
- 大腿骨頭壊死症
- 関節リウマチ
- 化膿性股関節炎
- 腫瘍
- 骨折
- 関節唇損傷
- 股関節インピージメント症候群
- 腰椎からの関連痛
- 膝関節からの関連痛
症状
- 股関節の疼痛(とくに前側)
- 臀部、大腿外側、膝内側などにも痛みを感じることがある
- 股関節の可動域の制限
- 長時間の歩行、立位で症状が悪化
- 夜、起床時に痛みを感じることがある
- 筋力低下
- 年々症状が悪化し歩行障害、日常生活に支障をきたす
痛みは股関節の狭小化および臼蓋形成不全の程度と関連するという研究報告があります。
しかし、先にも説明したとおりレントゲンと痛みの症状が一致しないケースもみられます。
また、痛みを強める要因の一つに肥満が関連するという報告もあります。
原因
遺伝、ホルモンバランス、老化による関節の変性が主な原因と言われています。
二次性変形性股関節症の80%は臼蓋形成不全に起因するという研究報告があります。
一般的な病院(西洋医学的)治療
変形性股関節症の治療は、保存療法、関節温存療法、関節固定術、人工関節全置換術が行われます。
保存療法は、生活指導、運動療法など手術以外の療法です。
また、手術が適応されたとしても元に戻るまでのリハビリ(運動療法、日常生活の動作指導など)は必要です。
運動療法
運動療法は、股関節の痛みおよび、機能改善に効果があるという複数の研究報告があります。
運動内容は有酸素運動(歩行)筋力トレーニング(主に股関節外転、膝伸展)、ストレッチ、水中運動が推奨されています。
ただし、継続的に実施していく必要があります。
2004年には井上医師がジグリング(貧乏ゆすり)を提唱しています。
ジグリングについて詳しくはこちら⇒ジグリングinfo
物理療法(温熱、超音波など)
痛みや機能改善を目的に温熱療法、超音波療法などが行われ、運動療法と併用すると有効とされる複数の研究報告があります。
ただ、超音波単独で治療を行った場合は、効果的であるという報告はありません。
徒手療法
股関節周辺の組織(関節包、筋肉など)に対して、伸張性を改善させる徒手療法は有効とされています。
ただ、物理療法および、運動療法と併用したほうが効果的とされています。
ホームケアとしてストレッチ、セルフマッサージも行っていくことも有効です。
歩行補助具(T字の杖、ロフストランドクラッチ)
股関節にかかる力が軽減されると共に歩行時のバランスが維持できるため、痛みの軽減、歩行能力の改善に効果的です。
薬物療法
非ステロイド性抗炎症薬(ロキソニン、ボルダレンなど)アセトアミノフェン、弱オピオイド(トラマドール)は、短期的には疼痛改善に役立ちますが、副作用があるため長期的な投与は慎重に行う必要があります。
弱オピオイドは、非ステロイド性抗炎症薬に比べ嘔吐、便秘、下痢、めまい、頭痛などの副作用が多くみられます。
非ステロイド性抗炎症薬の副作用は消化管障害、肝機能障害、アセトアミノフェンでは肝機能障害がみられます。
注射
ステロイドおよびヒアルロン酸を関節内に注入することで痛みの緩和がみられます。
ただ、ステロイド注射は、手術後の感染の危険性が高まるという複数の研究報告があります。
ヒアルロン酸の注入は、保険適用外です。
関節温存術
関節温存術は、人工関節を使用しない外科手術であり、人工関節の耐用年数の関係から50代半くらいまでの人を対象に行われることが多いです。
主な関節温存術の術式は、以下のとおりです。
- 寛骨臼回転骨切り術
- 大腿骨外反骨切り術
- 臼蓋形成術
- 大腿骨内反骨切り術
- キアリ骨盤切り術
- 関節鏡下手術
- 筋解離手術
関節温存術は、壮年期まで(44歳以下)の前変形性股関節症および初期変形性股関節症には症状の緩和、病気進行の予防に効果があるという研究報告があります。
進行期以降の変形性股関節症でも痛みは軽減されますが、術後の成績は劣ります。
また、中年期以降(45歳以上)関節温存術は、痛みの軽減はみられますが、術後の成績が劣るという報告があります。
固定術
若年層で末期変形性股関節症の痛みの緩和に有効とされています。
ただ、関節の可動制限によって生活に支障をいたしたり、隣接する関節(腰椎、膝関節)に支障をきたしたりすることがあります。
人工関節全置換術
人工関節の耐用年数は20年と言われていましたが、技術の進歩に伴い20年以上の耐用年数が維持できるとも言われています。
また、解析ソフトにより 最適な関節位置を選択できるようになり手術の精度は上がっています。
人工関節全置換術後のQOL(生活の質)の向上にも有用とされる研究報告が複数あり、レジャーやスポーツ活動も行えるようになるケースも少なくありません。
ただ、リスクのない外科的手術はなく人工股関節全置換術においては、脱臼、感染症、血栓塞栓症などの問題はあります。
- 脱臼初回1~5%、脱臼による再置換5~15%
- 感染症0.1~1%
- 深部静脈血栓塞栓症20~30%
- 症候性肺血栓症0.5~1%(致死性は0.5%未満)
人工関節全置換術後のリハビリ
手術前、手術後のリハビリによって筋力、股関節屈曲関節可動域、歩行能力などの改善が示されています。
リハビリ内容は運動療法が中心です。
研究報告では抵抗運動による筋力強化、自転車などが取り入れられています。
大腿骨寛骨臼インピージメント(FAI)
最近では、大腿骨寛骨臼インピージメントという病態が提唱されるようになりました。
分類は以下のとおりです。
- ピンサー型インピージメント(寛骨臼蓋の構造的疾患)
- カム型インピージメント(大腿骨頭から大腿骨頚にかけての構造的疾患)
- 混合型インピージメント(ピンサー型とカム型の混合)
FAIは股関節の構造的疾患により寛骨臼と大腿骨頭頸部移行部が衝突し、関節軟骨および関節唇を損傷する病態です。
症状は、股関節前方の痛み(鼠径部痛)股関節の可動制限(とくに屈曲に内旋を加えた動きで痛みが誘発される)が特徴的ですが、変形性股関節症でもみられる症状です。
FAIのように変形性股関節症以外でも、股関節の痛みを誘発する原因があるため、レントゲンで変形がみられた場合でも(とくに初期段階の変形)変形以外の痛みの原因も考慮する必要があります。
股関節の痛みは変形だけではありません
ここまで変形性股関節症の基礎的なところを解説してきましたが、変形が進行していれば手術はとても有効です。
ただ、耐用年数を考えると50代で手術に踏み切るのは不安もあるのではないでしょうか。
先にも解説したとおり、レントゲンの所見と痛みは必ずしも一致するわけではありません。
レントゲン所見と痛みについて以下の研究報告があります。
無症状の2,114人(平均25.3歳)のレントゲン、MRIなどの画像診断を行った研究をまとめた結果、37%にcam型変形、67%にPincer型変形、68.1%に関節唇損傷がみられた。
関節軟骨には痛みを感知する神経(侵害受容器)がないため、関節軟骨が少し損傷した程度では痛みを感じることはありません。
そのため、変形性股関節症であっても初期の段階であれば、変形以外の要因によって痛みを誘発している可能性があります。
まずは保存療法から
レントゲンで変形がみられると「手術しないと痛みがとれない」と考えがちですが、画像でみられる異常が必ずしも痛みの原因になっているワケではありません。
そのため、「変形性股関節症=即手術」と考える必要はないのではないでしょうか。
また、保存療法(運動、徒手療法など)でも改善されている研究報告もあるため、身体が動くのであれば専門家に相談し運動療法、徒手療法などを活用していくことで、痛みが緩和されていく可能性も高いです。
カイロプラクティック心でも変形性股関節症は対応可能です
全ての病院が身体評価をして、運動療法や徒手療法などの保存療法を行ってくれるワケではなく、薬の処方、電気治療のみということも少なくありません。
そうなると痛みもなかなか軽減されず、時間が経てば経つほど手術の選択肢だけに限られてきます。
カイロプラクティック心では、変形以外の痛みの原因(関節包の拘縮、関節の異常運動、筋肉の機能低下など)も考慮して、全身を検査、施術を行います。
また、動作(歩行、しゃがみ方など)も評価して痛みの少ない身体の使い方をアドバイスすると共にホームケア(ストレッチ、エクササイズ)も指導します。
変形した関節が元に戻ることはありませんが、変形以外の痛みの原因や他の組織の機能を上げていくことで痛みの軽減や支障をきたしていた生活が楽になっていきます。
「手術を回避していきたい」「今よりも痛みが軽減するなら受けてみたい」「手術は受けても良いけど定年退職するまで現状維持したい」などお考えの人は、ぜひカイロプラクティック心にご相談ください。
参考文献:変形性股関節症診療ガイドライン 2016
投稿者プロフィール
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伊勢市小俣町でカイロプラクターをしています。
病院では異常が見当たらず、どこに行っても良くならなかった方が体調を回復できるようサポートします。
機能神経学をベースに中枢神経の可塑性を利用したアプローチで発達障害、自律神経症状、不定愁訴にも対応しています。
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