ADHDの苦手克服に運動は有効

発達障害

ADHDの苦手を解決する運動効果

ADHDは、発達障害(神経発達症)の一つです。

現代の医学では確立された治療方法はありませんが、運動は一つの治療戦略として研究されており、有効性が示唆されています。

カイロプラクティック心でも、運動の介入によって困りごとが軽減している事例は多くみられます。

ここでは、研究ベースでADHDへの運動効果を解説しています。

ADHDでみられる困りごとを少しでも改善したい方、ご家庭はぜひお読みください。

ADHDの現状

ADHDは世界全体で5.29~7.2%の有病率がみられる小児期に最も多い神経発達症であり、一般的に成人まで持続します。

また、不注意、他動性、衝動性などの中核症状がみられることが特徴です。

中核症状がみられる原因の1つに、実行機能障害が研究で示唆されています。

実行機能は、高度な認知スキルを指し、抑制制御、作業記憶、認知の柔軟性を含みます。

ADHDの特徴、診断方法などはこちらの記事をご参考ください。

治療の現状

薬物療法と行動心理療法がADHD治療の中心となっているます。

研究では3分の1以上の小児が薬物療法に反応しない、もしくは部分的にしか反応しないと報告されています。

また、行動療法は費用が高く時間がかかることから、継続が難しい可能性が示唆されています。

このような現状から、近年は運動介入が注目され研究がされています。

運動効果のメカニズム

ADHDは中枢神経系(脳)の生理学的、構造的、機能的異常によって引き起こされると考えられています。

具体的には中枢神経系の抑制機能低下、作業記憶などは前頭線条体回路の機能不全によるドーパミンとノルエピネフリンの分泌不足と関連しているとされ、機能的磁気共鳴画像(fMRI)研究では、大脳皮質(前頭前野、大脳基底核など)、視床、小脳の活性化低下と関連していることが報告されています。

また、ADHDの中枢神経系の問題についてはこちらの記事もご参考ください。

運動は脳機能に好影響を与え、神経可塑性によって中枢神経系の構造的、機能的な変化をもたらします。

神経可塑性のメカニズムについて詳しくはこちら

運動強度が中程度から高程度の場合、脳由来神経栄養因子(BDNF)の分泌および脳への血流を増加させ、それによって神経可塑性を促し情報処理能力を高めます。

また、有酸素運動はドーパミン濃度を高めることが示唆されています。

ADHDの運動介入研究レビュー

1757人のADHDを対象とした44件の研究を分析しました。

あらゆる種類の身体運動は、実行機能の改善に効果的でした。

とくにオープンスキル活動は抑制制御の改善に最も有望な身体運動と報告されています。

有酸素運動が中心のクローズドスキル活動は、作業記憶に対する最も有望な身体運動介入である可能性がありました。

多くの要素を含んだな身体運動が認知柔軟性に最も効果的である傾向がみられました。

オープンスキル

オープンスキルは、対戦相手や道具(各種ボール、シャトルなど)環境(風、グラウンド状態など)が常に変化する状況下で発揮される技術や能力であり、サッカー、バスケットボールなど主に球技です。

また、以下のようなコーディネーション能力を求められます。

  • リズム(リズムよく動くタイミングを図る)
  • バランス(崩れた姿勢を立て直す、動ける姿勢を維持するなど)
  • 変換(状況に合わせて動きや姿勢を変える)
  • 反応(合図に素早く反応し、適切な行動をとる)
  • 連結(身体のあらゆる部分を連帯させて動かす)
  • 定位(動いているものと自分の位置を把握する)
  • 識別(道具を上手く操作する)

これらの能力をサッカーで例えると以下のようなことが言えます。

走るリズムとボールをタッチするリズムを合わせることでドリブルがスムーズに行えます。

そして、相手と接触することによってバランスを崩しても立て直すバランス感覚やシュートやパスをするために準備段階として姿勢の維持が重要です。

相手のいないところにボールを運ぶためには相手の動きに反応しつつ、その次のプレーに繋げるために体の動きを連帯させながら動きを変換させることで質の良いパス、シュート、ドリブルなどが行えます。

定位はボールの速度や自分の状況を把握することでパスを受けやすい位置に走り込むことができます。

これらは中枢神経系の負荷が高く、より神経ネットワーク強化されると考えられています。

オープンスキルによる中枢神経系への負荷

まず動く人や物をみるために、視覚機能が重要です。

視覚の機能は脳の1/3を占めると言われており、あらゆる脳領域が連帯して機能しています。

そして、「自分が何処にいるのか」を把握するために視覚だけではなく前庭系、体性感覚などの感覚が重要となり、視覚と合わせて姿勢を維持したり、動きをコントロールするために重要な役割を果たします。

オープンスキルでは、相手の動きを予測し、ときには予測と違う動きに対しては自分の動きをよりコントロールする必要があります。

例えば、野球では投げた瞬間にストレートと予測し、バッティング動作を開始したとしても途中でボールが変化もしくはストライクゾーンにボールがこないと認識すれば、打ち取られるリスクを減らすためにバットを止めるような抑制的な体のコントロールが必要とされます。

この動きを実現するために、小脳や大脳基底核などの脳領域が強力に働く必要があります。

オープンスキルでは競技特性に合わせて、さまざまな脳領域を駆使して身体活動を行うことになるため、中枢神経系の負荷は大きいと考えられます。

抑制制御

オープンスキル活動を含む運動は、抑制制御の改善に最も効果があると示唆されました(オープンスキルに限らず他の身体活動も一定の効果は報告されています)

抑制制御は幼児にとって、気が散るような環境でも無関係な刺激を無視する能力として最初に現れます。

そして、抑制制御がある程度の発達がみられるとワーキングメモリーや切り替える能力などの実行機能をより上手く利用できます。(参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21077853/

一般的に行動の抑制は、乳児期に芽生え始めて幼児期に著しく発達し、児童期から青年期まで緩やかに発達が続き、老年期には低下するとされています。

行動の抑制と深いかかわりのある前頭前野は成熟に時間がかかるため、20歳前後まで発達すると考えられています。

また、発達の年齢に応じて前頭前野の活動にも変化がみられ、例えば3~5歳では下前頭領域が優位に活動することが示唆されています。

オープンスキルの身体活動は、前頭前野を介した多くの神経ネットワークを利用することで、抑制制御が優位に改善すると考えられます。

クローズドスキル

クローズドスキルは、オープンスキルとは反対に対戦相手や環境、道具などに左右されない状況下で発揮される技術や能力であり、 陸上競技や体操、水泳、ゴルフなどが挙げられます。

クローズスキルの研究では、有酸素運動との関連性が示唆されています。

ここで誤解してほしくないのは、有酸素運動の要素が少ないクローズドスキルの競技(短距離、体操など)は効果がないということではありません。

有酸素運動の有効性

複数の研究でワーキングメモリと脳の活性化レベルは、急性および慢性の有酸素運動後に有意に改善することが報告されています。

ADHDのラットモデルの研究では、水泳が多動性、衝動性、攻撃的な行動を減らすと同時に、短期記憶を改善する可能性があるという研究結果があり、そのメカニズムとして考えられているのは、ドーパミンレベルの上昇とドーパミンD2受容体の発現の低下です。

このようなことから、ドーパミン不足が考えられるADHDでは、ドーパミンレベルを調整できる有酸素運動は有効と考えられています。

ワーキングメモリー

ワーキングメモリーは、就学前から青年期まで直線的には発達するとされ、一般的には短期記憶の意味で用いられることが多いです。

ただ、本来は短期記憶を用いて、他の認知活動や他の記憶を合わせたりするための機能を指し以下の3つから成り立つとされています。

  • 視空間的スケッチパッド(色・大きさや空間における位置などの視覚イメージの短期記憶)
  • エピソードバッファ(長期記憶から情報を取り出し、視覚や聴覚などの五感による情報と照合したりする短期記憶)
  • 音韻ループ(音声や音楽など聴覚から得た情報を保存する短期記憶)

また、上限があり最大7つとされていますが(長期記憶に上限はないとされています)、作業に適した順番に記憶を操作することができます。

例えば、A、B、C、Dを買うためにお店に入った場合、順路に応じてC、B、A、Dと記憶を変更することができます。

このような柔軟性があるからこそ、作業に多少の変更があったとしても時間のロスがなく、作業を遂行することができます。

有酸素運動で上昇するドーパミンは、ワーキングメモリーに必要な脳領域である海馬を活性化させる物質です。

多くの要素を含んだ身体活動

バランス運動、ストレッチ、有酸素運動など複数の身体活動を取り入れることで、認知の柔軟性向上がみられました。

ここまで解説してきたように特定の運動ではなくとも身体運動は、注意力を分散させるために必要な脳領域と他の特定の領域との間の協調性を高め、ADHDの子供が外部情報を処理し、注意力を高めるのに役立とされています。

また、定期的な身体運動は、副腎ホルモン受容体の活動を促進し、ドーパミンとノルエピネフリンの産生と分泌を高め、集中力を改善することもできます。

そのため、研究ではヨガ、乗馬なども行われており、それぞれの有効性が示唆されています。

認知の柔軟性

認知の柔軟性は、変化する環境に応じて自分の行動を適切に調整する能力とされています。

認知柔軟性のスキルは幼児期に発達し始め、7~9歳の間に能力が急激に発達し、10歳ころにはピークに近づきますが、成人期まで向上し続け、21歳から30歳の間にピークに達するとされています。

認知の柔軟性は、ASD、ADHD、強迫性障害などの神経発達障害にみられ、とくにASDはRRBと呼ばれる中核症状に関連しています。

認知の柔軟性に関してASDにみられる強いこだわり(RRB)についても触れていますので、こちらの記事もご参考ください。

この認知の柔軟性を向上させるために、先に解説した制御やワーキングメモリーの発達が重要と考えられています。

運動してもADHDの困りごとが解決しない理由

ADHDの特性をもつお子さんのなかには、習い事でスポーツを開始しているケースがあります。

また、中学生や高校生では何らかの部活に入っていることも多く、スポーツ経験が長くなっても困りごとが解決していないケースも少なくありません。

この理由の1つが、運動の偏りがあると考えられます。

どのような運動でも継続すれば、トップアスリートであっても数日の練習では勝てないレベルには引き上げられます。

これは特定のスキルが向上しているだけであって、脳機能全体をみて評価するとバランスが崩れやすかったり、常に体を緊張させて動いていたりするなどADHDの困りごとと紐づけられる脳機能の低下がみられます。

そのため、日常的に運動を行っていたとしても得意なことだけに特化してしまっている可能性があり、脳全体の成長にはつまづきがみられるとADHDの困りごとは解決しないと考えられます。

運動が脳機能に良い影響を与えることは間違いありませんが、脳機能が低下している領域を活性化させるために必要な運動を行っていくことも大切です。

そのため、カイロプラクティック心では脳機能を評価し、機能低下している領域が活性化する運動プログラムを提供しています。

カイロプラクティック心の運動によるADHDサポート

カイロプラクティック心は、こどもの発達障害に有効なBBIT認定士が在籍しています。

そのため、脳の可塑性を利用して脳のアンバランスを改善して少しでもADHDの困りごとが克服できるようサポートしています。

制御、ワーキングメモリー、認知の柔軟性の順番で認知の発達が進んでいくように、脳機能の向上させるためには段階的に運動を構築する必要があります。

とくに発達障害のこどもでは運動をしていたとしても、初期の発達段階で統合されるべき原始反射が残ってしまっているケースは多いです。

それが結果として、段階的な発達につまづいてしまっていることがあります。

そのため、原始反射の統合を優先的に運動を行っていくことも大切になります。

なかには原始反射統合エクササイズは行ったことあるけど効果がなかった経験を持つ人もいますが、原始反射は初期段階のアプローチであり、その後も脳の発達にはやるべきことがたくさんあります。

また、原始反射エクササイズも年齢や特性に応じて一人ひとりに合わせた方法で行うことが重要です。

原始反射統合エクササイズについてはこちらをご参考ください。

このようなことから、身体評価で一人ひとりに合わせた運動プログラムを作り、段階的に運動内容も変更していくことでADHDの苦手も克服しやすくなります。

また、スポーツ系の部活、クラブチームに在籍しているケースでは、スポーツのパフォーマンスも上がることが多く、「スポーツが上手くなった」と喜ばれることもあります。

すでに運動を開始している場合でも、ぜひご相談ください。

発達障害のアプローチについて詳しくはこちら

参考文献

Zhu F, Zhu X, Bi X, Kuang D, Liu B, Zhou J, Yang Y, Ren Y. Comparative effectiveness of various physical exercise interventions on executive functions and related symptoms in children and adolescents with attention deficit hyperactivity disorder: A systematic review and network meta-analysis. Front Public Health. 2023 Mar 24;11:1133727. doi: 10.3389/fpubh.2023.1133727. PMID: 37033046; PMCID: PMC10080114.

Dajani DR, Uddin LQ. Demystifying cognitive flexibility: Implications for clinical and developmental neuroscience. Trends Neurosci. 2015 Sep;38(9):571-8. doi: 10.1016/j.tins.2015.07.003. PMID: 26343956; PMCID: PMC5414037.

 

投稿者プロフィール

カイロプラクティック心
カイロプラクティック心カイロプラクター
伊勢市小俣町でカイロプラクターをしています。

病院では異常が見当たらず、どこに行っても良くならなかった方が体調を回復できるようサポートします。

機能神経学をベースに中枢神経の可塑性を利用したアプローチで発達障害、自律神経症状、不定愁訴にも対応しています。

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